法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『終戦記念特別ドラマ・真実の手記 BC級戦犯 加藤哲太郎「私は貝になりたい」』

2時間超のドラマ化。旧作ドラマの記憶はどの版もあやふやなので、比較せずに感想。


映像的には先日の『はだしのゲン』ドラマに負けず劣らず完成度が高い。ドラマレベルならばインビジブルVFX*1は充分なクオリティが得られるようになってきた。廃工場の壁穴が星空に見えるカットなど*2、単純に映像として良い絵も多い。
俳優陣の所作も良く、主人公の演技を安心して見ていられる。ただ、ビンタ等の虐待シーンは力を抜いているのがあからさまだった*3


物語は、まずまずの内容。主人公の人物像を示す序盤から逃亡を続ける前半、戦犯として扱われる後半まで、隙らしい隙がない。日本軍における捕虜虐待、戦前戦後で態度を変える人々、米軍の巧妙な虐待といった大状況から、戦後社会からも阻害される戦犯容疑者、真犯人を知って*4苦悩する主人公まで、見せるべきものをしっかり見せている。軍人だった主人公を昭和天皇は助けず、マッカーサーが助けたという対比も面白い。


ただ気になったのが、裁判場面が短時間で終わったこと。主人公の弁護が行われていたことは見せていたが、論戦が戦わされたりはしなかった。新聞報道でのみ示される裁判状況といい、良くも悪くも戦後日本が戦犯裁判に対して興味を持っていた度合いを示しているのではないかと思う。
さらに、ドラマを見る前から注目していたBC級裁判伝説。『はだしのゲン』原作にも出てくる、収容所で捕虜に対し善意で灸をすえたりゴボウを食べさせたら虐待とされたという逸話だ。有名な話だが、灸やゴボウのみで戦犯にされたという経緯は都市伝説ではないかと指摘されている。
まずゴボウ伝説にid:Apeman氏が疑問をていして調べ*5id:bat99氏がお灸伝説についても確かめた*6
今回のドラマを見ても、伝説については旧作を踏襲するだけで、疑問符がつけられたり言及を避けたりはされていない。実話を基にしたフィクションと断っているので、ドラマと思えば許容はできる。だが、戦犯裁判に対して問題点が指摘されるばかりで価値が全く言及されないのは、ドラマとしても欠点になっていると思う*7


もちろん主題を考えれば戦犯裁判を肯定するわけにはいかないが、冤罪を批判すると同時に裁判に対する偏見を改めれば、ラストの和解がより奇麗におさまったのではないかと思ってしまった。

*1:怪獣映画の破壊シーンのように特撮を前面に出して楽しませるのではなく、過去の映像や撮影禁止場所を映像化するために使われる、目立たないことを優先する特撮のこと。

*2:ベタといえばベタだが。

*3:最近の虐待シーンでは、NHKスペシャル水木しげるドラマが良かった。

*4:この前後のシチュエーションを放映できたのは素直に驚いた。様々な自主規制に引っかかりそうだと思ったのだが。

*5:http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20060828/p1

*6:http://d.hatena.ne.jp/bat99/20060904

*7:このため、マッカーサーの意思を暗示させる再審が、戦犯裁判が相応の正当性を持っていたとは感じさせず、ただのデウスエクスマキナと受け取れる作りになっている。