法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

赤松健氏が「一切の表現の自由」を主張しているなら、アングレーム漫画祭や『国が燃える』への介入についての見解も当然に問われるのでは

「三毛招き@mikemaneki」氏の下記ツイートが注目を集めていた。


フランスで漫画といえば、レドマツ先生はアングレーム国際漫画祭慰安婦をテーマにした漫画に日本大使館が抗議をして『外圧』をかける、というバリバリの表現の自由の侵害した件についてどうお考えなんですかね。まあ、何も考えてないだろうが。

はてなブックマークの反応は賛否両論といったところか。
b.hatena.ne.jp
まず一般論として、一市民があらゆる社会問題にリソースをそそぐことは不可能であるし、あらゆる社会問題に言及することも同様だろう。
しかし逆に特定の社会問題についての見解を問うこと自体もまた基本的には言論の自由だろう。そうした問いにすべて回答する義務は必ずしもないが、「三毛招き@mikemaneki」氏がそこまで求めていたり、その権力があるわけでもあるまい。
そうした一般論をかんがみて「三毛招き@mikemaneki」氏が不当な要求をしているようには読めない。


また今回は赤松健氏は一市民ではない。漫画家として当事者団体にかかわっており、さらに今回は与党自民党から参議員候補として出馬している。
国家のリソース分配にかかわる立場を目指す以上は、あらゆる社会問題になんらかの対応をするよう期待される。もちろん実際に政治家となってもあらゆる社会問題に対応できるわけではないが、ただの一市民とは違った応答責任は発生する。いざ政治家となれば対立する立場の意見も本来は聞かなければならないし*1、その葛藤を調整するのが仕事のひとつといってもいい。
事実として、数日前に赤松氏自身が「「一切の表現の自由」を守る」とツイートして、すでに注目を集めていた。ツイート内の年表にアングレーム漫画祭や『国が燃える』への自民党の要求は書かれていない。


日本国憲法下でも、マンガは常に規制の脅威に直面。公権力だけでなくマスコミや民間団体も連携していた点が重要。手塚先生の『鉄腕アトム』でさえ悪書追放の槍玉に挙げられたほど。少しでも気を抜くとディストピアが到来する。「一切の表現の自由」を守るため、これまで以上に全力で闘います!

はてなブックマーク等では、「一切の表現の自由」をうたいながら性的表現の抑圧に偏っているという指摘がされている。
b.hatena.ne.jp
出典が経済産業省*2の下記ページだとすると、冒頭の断り書きで「描く側」の「自己規制」等もふくめることが明記され、「マンガと社会の摩擦」と表現されている。
artsandculture.google.com

マンガの歴史は、公的機関などからの検閲、そして描く側、発行する側の自己規制と不可分に進んできた。現在も続く、マンガと社会の摩擦を考える。

おそらく永山薫氏がエロ漫画評論家であるため、その側面からの抑圧史が重視されているのだろう。紀伊国屋の自主撤去に『ベルセルク』等の非成年漫画がふくまれていた問題も、法規制の余波として位置づけられている。
それでも「コンビニエロ本追放問題」についてさまざまな背景を指摘しつつ、「単に時代に合わせた売り場の再構成と見るべきかもしれない」と最後に評したりと、さすがに簡易な年表よりも包括的に論じている。政治家は「鳩山首相」と「石原都知事」だけが記載されている赤松氏の年表と違って、『蜜室』介入が平沢勝栄氏によっておこなわれたことも記載されている*3


さらに赤松氏は選挙において性的表現に限定せず、一般的な漫画やソフトが禁じられる懸念を「規制派の夢」として語ってもいた。


児童ポルノ絡みの単純所持禁止の可能性であればまだ理解できるが、『鬼滅の刃』から話が始まっており、漫画一般の単純所持禁止についての話をしている。つまりデマゴゴス。

ならば同じ集英社の漫画が、性的表現以外の理由で政治家から介入されて連載打ち切りとなった『国が燃える』を前例として参照してもいいだろう。

*1:もちろん聞くということは、そうした意見にすべて従うという意味ではない。それに反した本音を与党自民党にして現職大臣の山際大志郎氏が公言したばかりだが…… www.jiji.com

*2:ただし「ストーリーによっては独立した第三者が作成した場合があり、必ずしも下記のコンテンツ提供機関の見解を表すものではありません。」と断り書きが末尾にある。

*3:警察に連絡した背景となる「警察庁OB」という肩書きだけが説明され、自民党の現職政治家とはわからないが、他の政治家も所属政党は記載されていない。