法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『とべ!くじらのピーク』

 スペインの海辺に、嵐の海で父をなくし、村社会で孤立しながら、負けずに生きている兄弟がいた。そして弟が海岸の潮だまりに閉じこめられた白い子クジラを見つけ、ふたりはピークと名づけて助けようとする。しかしピークの存在が大人たちに知られ、見世物にされるため無理やり街に運ばれていった。兄はピークを追って運河の街へ行くが……


 児童文学を原作とする1991年のアニメ映画。アニメーションがすごい子供向け作品として一部に知られたカルト作品だが、DVD化はされており、少し前からプライムビデオで見放題になっているので視聴は難しくない。

 スタッフとして、森本晃司監督、うつのみやさとるキャラクターデザイン作画監督、さらに作画監督補に井上俊之や森田宏幸などなど、すさまじいアニメーターが結集。
 オムニバスの一編などは手がけていたものの、当時まだ「若手」*1だった森本晃司にとって単独作品は初監督。スペインの漁村から都市部まで世界名作劇場を思わせる緻密な空間を、クジラを追って少年が動いていく。
 真っ青な空に白い鳥がただようファーストカットから雰囲気がたたごとではない。シンプルな線なのに画面が完成されている。本筋に入っても、嵐のイメージシーンのエフェクト作画*2はリアルで、キャラクターはシンプルなデザインだが芝居は細かく、モブもきちんと個性をもって別々に動く。クライマックスの追跡劇も運河の街を縦横無尽に動きまわり、背景動画*3は少なめだがカメラワークに必要充分に使用されている。真横から日が当たり影がのびる光源描写や、光の当たった水面を白く飛ばして影の水面を透明にする手法など、演出も見どころが多い。
 ただ撮影段階の問題をところどころ感じた。色パカがほんのわずかあったのは目をつぶるとしても、当時のアナログ撮影にしてもセルのがたつきが目立つカットが多かった。


 人物造形は全員いかにもテンプレートで、ストーリーラインにも意外なところはないが、それゆえツッコミどころが少なく映像重視の作画アニメとしては普通にお話としても楽しめる。クジラをもっていくかわりに興行主に押しつけられた紙幣を主人公がつきかえしにいくような段取りがしっかり入っている。
 今でいう悪役令嬢ヒロインはテンプレートの良さが出ていたし、守銭奴がきわまった興行主のクライマックスの行動は良い意味で驚いた。もともとの主人公の立場や、クライマックスで、先日に視聴した『ChaO』*4との符合を感じたりも。
 興行主の屋敷からクジラを勝手に海に戻そうとする主人公の行為は、当時の流行らしいエコロジー描写とは思ったが、動物のショービジネス化全般が問題視されるようになった現在、むしろ世界的には共感しやすくなっているかもしれない*5。どちらかといえば、1990年代にはこのようなアニメをつくれていた日本の、現在の意識の後退を思わざるをえなかった。

*1:DVDのライナーノートに採録されたパンフレットの紹介文。 とべ! くじらのピーク [DVD]

*2:井上俊之担当らしい。

*3:少し松本憲生っぽさを感じたカットもあったが、クレジットを見ると参加していない。こちらの背景動画は井上俊之によると橋本晋治担当で、作監修正もほとんど入っていないとのこと。

*4:『ChaO』 - 法華狼の日記

*5:今年2月に、ショーのため過酷な環境で飼育されるイルカを元海兵隊が盗みだして海にもどすリアリティ番組をダイジェストで見た。 『世界まる見え!テレビ特捜部』ぶっ飛んでいる人が大集合!やりすぎかよSP - 法華狼の日記