法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

タレントを起用するアニメは声優の演技に合わせて作画しているから良い?

タレントの声優起用について賛否を問うアンケートをオリコンが行っていた。解答に見られる作品名を見ると、アニメ作品を熱心に見ている層には限定していない様子。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140801-00000350-oric-ent

今回、ORICON STYLEでは10代から40代の男女を対象に、『声優にタレントを起用することについてどう思いますか?』というアンケート調査を実施。その結果、51.5%が【YES(起用すべき)】、48.5%が【NO(起用すべきではない)】と、【起用すべき】がわずかに上回ったものの、ほぼ半々となった。

ここで「起用すべき」という表現から、あたかも積極的な起用を望む意見が多いかのように感じるが、個別の回答を読むと違うことがわかる。

【起用すべき】と答えた主なコメントとしては、「声とキャラクターが合っていればいいと思う」(福岡県/20代/男性)、「キャラクターに合っているなら、話題も作れるので、いいと思う。起用された役者さんの演技次第」(東京都/20代/女性)、「声が合っていれば、俳優でも誰でもいいと思う」(大阪府/30代/女性)と、声の魅力や演技力が伴っていれば気にならないという意見が大多数を占めている。

これらは「起用してもいい」という表現が近いだろう。アンケートは公開されていないが、設問や選択肢が良くなかったのではないか。
たしかに声優らしい活動をしていなくても良い演技ができるタレントは何人もいると思う。ひとくちにタレントといっても、舞台俳優などは声優に近い演技力が求められるし、舞台出身の有名俳優も多い。そうでなくても羽賀研二のように、映画版で主役を演じただけでなく、そのTV版でも続けて主役を演じた例もある。


そして問題の、スタジオジブリ作品が俳優を起用していることについて。

これは逆に声優未経験ならではの“味”が求められているからで、「ジブリの作品は、役者さんが声を入れている表情を見て、登場人物の表情を書き上げる、と聞いたことがあるので、役者さんの方が良いと思いました」(東京都/30代/女性)、「基本的に起用すべきではないと思いますが、ジブリ細田守監督作品のように世界観を壊さない演出ができるなら良いと思う」(栃木県/30代/男性)と、概ね肯定的な意見が多かった。

いやその「東京都/30代/女性」の意見って、役者を積極的に肯定している唯一の回答なんだけど、つまり勘違いが根拠だよね?
宮崎駿監督作品では声にあわせて作画するプレスコをしていないし、声優が表情の演技をおこなわないというのも誤り。プレスコでなくてもロトスコープという手法で、役者の表情を作画に描き起こして、別の声優が声をあげることだってできる。役者が声をあてることは、俳優の演技を参考に作画することの必要条件でも十分条件でもない。
スタジオジブリ作品でも、非声優がメインに入ったのは、高畑勲監督の『火垂るの墓』くらいから。もともと『じゃりン子チエ』等で非声優を起用しつづけた高畑監督作品には批判が少ない。よく問題視される宮崎駿監督作品は、メインはベテラン声優にまかせることが多かった。プレスコをおこなっているのも高畑監督作品のみ。
http://astand.asahi.com/magazine/wrculture/special/2013101600009.html

高畑勲監督は、『火垂るの墓』(1988年)以降、ずっとプレスコにこだわって来た。様々な制約で、全てをプレスコ録音というわけには行かず、『火垂るの墓』『おもひでぽろぽろ』(1991年)『平成狸合戦ぽんぽこ』(1994年)『ホーホケキョ となりの山田くん』(1999年)と、いずれもアフレコの追加録音も行ったそうだが、極力発声のニュアンスに作画を近づけようと地道な努力を続けて来た。

作風が違う監督作品をスタジオジブリとまとめるのは良くないし、それをタレント声優全体に適用するには例外あつかいするべきだろう。