法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

「慰安婦漫画で日本が倍返しだ!」「見た目は派手だが、脇はがら空きだぞ」

すでに半年前の話題だが、フランスの国際漫画祭に韓国から慰安婦漫画が出品されるという報道があった。
サーチナ-searchina.net

  チョ長官は「日本軍慰安婦問題は、女性への性犯罪であり、人権侵害行為に慰安婦問題を国際社会にきちんと教えて、これらの犯罪行為が発生しないようにすべき。今後も継続的に国際社会の積極的な理解を求めて参加を要求する」と明らかにした。

  一方、アングレーム漫画祭アジア担当ディレクターのフィネット氏は「日本軍慰安婦問題は、女性の性暴力の問題として、日本政府がその責任を認めない限り、過去ではなく、現在の問題である。欧州など国際社会にこの問題を知らせることに最善を尽くす」と述べたという。

正直にいえば、史実としての妥当性とは別個に、国家が物語内容に口出しして創作作品が良くなるとは予想できないところ。


これに対して先月末のZAKZAK記事で、対抗する日本側のプロジェクトがたちあげられたと報じられた。
http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20131031/dms1310311811023-n1.htm

 韓国政府の暴挙が発覚した。フランスで来年1月に開催される国際漫画フェスティバルに、慰安婦問題を題材にした漫画50本を出品して、日本や日本人の名誉を貶めようとしているのだ。わが国の誇るべき文化・漫画を悪用した「反日」政策といえる。これに憤慨した日本の若き会社社長が、韓国の卑劣な嘘を暴く、真実の慰安婦問題を伝える漫画100本を制作し、「倍返し」の徹底抗戦をするという。

 「子供たちが楽しみに読む漫画で、事実とまったく違う内容を描き、日本と日本人を傷つけるなんて…。一報を読んで『絶対に許せない』と思いました。これは、お金の問題じゃない。徹底的にやります」

 こう語るのは、都内でコンサルタント業や漫画広告事業を営む藤井実彦氏(41)。今回の「論破プロジェクト」の発案者であり、実行委員長である。

http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20131031/dms1310311811023-n3.htm

 漫画フェスティバルに出品する代表作は「The J Facts」。慰安婦問題について知識のなかった姉妹2人が、これまでの経緯や、韓国側の嘘を学ぶことで、「慰安婦問題の真実」にたどり着く−というストーリーで、原作は藤井氏、作画は大雲雄山氏が担当した。83ページの力作で、11月にフランスでフランス語版を出版するという。韓国側をたたく内容になっていないあたりが、日本の見識といえそうだ。

アングレーム国際漫画祭は、多様な作品を集めているものの、過去の受賞作品を見ると、どちらかというと大人向けのバンドデシネ作品を中核に置いているようだ。「子供たちが楽しみに読む漫画」と語っている藤井実行委員長の感覚は、実態とずれていそうに思う。
46e Festival de la Bande Dessinée d'Angoulême - Du 24 au 27 janvier 2019
さらに過去の受賞作品のひとつ『マウス』は、アウシュビッツ収容所のホロコーストを淡々と描いた作品である。そのような漫画祭であれば、戦争犯罪を題材としたことだけをもって作品が拒否されることはないだろうし、だからこそアジア担当ディレクターも一般論の範囲で歴史を伝えることを肯定したのだろう。
【アングレーム国際漫画祭特集①】アングレーム国際漫画祭とは何か|BDfile

アート・スピーゲルマン『マウス』第1巻(最優秀海外作品賞、第15回、1988年)

いずれにせよ、どれほど作品が真摯に歴史と漫画に向きあっているかが評価されることを期待したい。


そこで「論破プロジェクト」が代表作に位置づけている『The J Facts』だが、公式Facebookから6頁ほど断片的に見ることができる。
論破プロジェクト - 論破プロジェクト 5枚目 カラー原稿... | Facebook


こちらは日教組バリバリの金井先生の慰安婦問題焚き付けページです。
こういう先生って実際には見た事ないなぁ。

公式がコメントしているとおり、現実の歴史学とも韓国政府の主張*1と乖離がある。実際に漫画祭で韓国側の作品と見比べられた場合、見えない敵と戦っていることがあからさまになるだけと思わないのだろうか。
もちろん一部しか公開されていない作品に対して全体の感想は書けないが、正直にいって漫画として評価することも難しい。カラーだから欧米の漫画読者にはなじみがあるだろうし、文字数の多い台詞も海外の漫画作品には少なくないが、誉めるところも見当たらない。
とりあえず1頁単位の画力と構成力を比較した限りでは、東亜日報の伝える韓国作品に軍配をあげざるをえなかった。
김광성 작가 “팩트 바탕한 스토리로 일본군위안부 고통 세계에 알릴 것”*2

女性部の提案を受けた韓国漫画連合は何人かの作家候補を置いて苦心の末にキム氏を選んだ。 キム氏が韓国人神風特攻隊を描いた‘瞬間に負ける’(2003年)で第13回大韓民国漫画対象優秀賞を受賞するなど当時時代状況を入れた漫画をたくさん描いてきたためだ。 ストーリーは韓国漫画ストーリー作家協会副会長であり‘今日はマヨである’(1996)と‘総数(総帥)’(2009)のストーリーを使ったチョン・ギヨン作家が引き受けた。

漫画主人公は十六年齢に慰安婦に引きずられて行って一生傷を胸中にだけ抱いてきたハ・クムスンおばあさん(仮想人物)だ。 おばあさんが偶然に駐韓日本大使館をすぎる‘日本軍慰安婦問題解決のための定期水曜デモ’に参加した同僚に会って話が始まる。

彼は“日帝強制占領期間関連本は全部みな買って読んだようなものだ。 ファクト(事実)に土台を置いた漫画を描くことが身についている”とした。 口述資料を読んで怒りと痛みに震えることもした。 “作家は主人公心と同化されるのにおばあさんが口にできない傷にあった話を読んでぞっとしたし痛かったです。 それでも末梢的に刺激しないで淡々と表現するでしょう。”

今回の話題とは別個に、記事中にある『瞬間に負ける』という作品は題材が興味深いので読んでみたい。


やはり「論破プロジェクト」側も力不足を自覚しているのか、投稿漫画を受けつけている。
そこで公式サイトを見ると、11月10日の時点で187万9000円の協賛金が集まっていた。
論破プロジェクト | 間違った自虐史観を漫画で斬る!
これならば、投稿漫画の賞金やサイトのサーバー代を支払っても、お釣りが出るだろう。なかなか良い商売だ。
プロジェクト進行状況 | 論破プロジェクト*3

史実ベースに基づいた内容であれば、すでに発表済みの作品でもOK!
最優秀賞には賞金20万円を差し上げます。
賞金:

最優秀賞:賞金20万円(1人)
佳作:賞金10万円(3人)
敢闘賞:賞金5万円(5人)

締め切り 2013年12月24日 

過去に発表した作品でもいいとあることから、試しに投稿してみようと思う人もいるかもしれない。
しかし、応募要項を読むと大きな落とし穴がある。

★応募要領
・論破ドットコムが推奨する参考資料に基づいた内容であること
・既に他媒体やコンテストで発表された作品でも可
(応募の際に、掲載媒体等を併記願います)
・日本語の作品でOKです


★注意点
・他国をひどくおとしめる様な内容に関しては選考対象外とさせていただく場合があります。
・史実に基づいた作品を制作してください。

下記の参考文献にもとづきながら、史実にもとづく作品をつくるのは不可能と思わざるをえない。

参考文献:

『日本人が知っておくべき「慰安婦」の真実』 (SAPIO編集部編、発行:小学館

『日本人なら絶対に知っておきたい従軍慰安婦の真実』 (オークラ出版

『「慰安婦問題」は韓国と朝日の捏造だ100問100答』 (著:黄文雄、発行:ワック)

『「従軍慰安婦」強制連行はなかった―政府調査資料が明かす河野談話のウソ この一冊でいわゆる「従軍慰安婦」問題の全てがわかるQ&A』 (著:松木 國俊、出版:明成社

『ひと目でわかる「日韓併合」時代の真実』 (著:水間政憲、発行:PHP研究所

『ひと目でわかる日韓・日中 歴史の真実』 (著:水間政憲、発行:PHP研究所

『ひと目でわかる「日中戦争」時代の武士道精神』 (著:水間政憲、発行:PHP研究所

『情報戦「慰安婦・南京」の真実 完全保存版―仕掛けられた情報戦争に勝つ方法』 (編:西村 幸祐、オークラ出版

歴史学者の書籍や証言集がひとつもない。まさか秦郁彦慰安婦と戦場の性』すら入っていないとは思わなかった。
しかも参考文献の著者で「論破プロジェクト」賛同人になっていないのは松木國俊氏だけ。その松木氏にしても、自由主義史観研究会の関係者であり、藤岡信勝氏ら賛同人とのつながりがある。


さらに投稿漫画の選考委員長の名前を見ると、「論破プロジェクト」そのものの背景に問題があることがわかる。

「論破ドットコム」マンガ選考委員会により、厳正な選考を行います。
(選考委員長:さとうふみや

選考委員長は、『金田一少年の事件簿』の作画で知られる漫画家であると同時に、幸福の科学信者ということも知られている。
http://homepage3.nifty.com/hirorin/bookangels.htm
実際に後援団体リストを見ると、幸福の科学が関与していることが明かされている*4
論破プロジェクトとは | 論破プロジェクト

後援団体(50音順)


慰安婦の真実」国民運動
株式会社安田建設
日本の歴史を考える会
幸福実現党

当然のように「論破プロジェクト」は幸福の科学サイト「ザ・リバティweb」で実行人の談話が掲載されていた。
韓国の慰安婦漫画に日本から「倍返し」 - 「論破プロジェクト」始動! 論破プロジェクト 実行委員長 藤井実彦氏インタビュー | ザ・リバティweb
ついでにメインキャラクター「トックマ」からも背後関係がうかがえる。
プロジェクト進行状況 | 論破プロジェクト


トックマ

沖縄県尖閣諸島魚釣島に現在住んでいるクマ。テントで一人暮らし。
普段はおとなしく釣り糸を垂れ、魚を釣り、魚釣島を掃除して、英霊を祀っているが、怒ると友達のサメに乗ってどこまでも突っ込んでゆく男気も持つ。
好物は夕張メロン。しゃべれないが、背中に文字が浮かぶ。サングラスはレイバン

従軍慰安婦問題と関係が薄い尖閣諸島に在住しているというプロフィールとネーミングは、幸福実現党の青年局長であり尖閣諸島に上陸したことのあるトクマ氏をモデルとしているのだろう*5
http://sankei.jp.msn.com/region/news/121130/tky12113022410007-n1.htm

 東京都庁で行われた出馬会見では、9月に尖閣諸島へ上陸したビデオを流した。

 「中国漁船が1千隻も出港したと聞いて、怖くて、行きの船の中では一睡もできなかった」

 ライフジャケットを着て海に飛び込み、泳いで上陸後、慰霊碑の周りを掃除し、ギター代わりに持っていったほうきで自作の歌をシャウトした映像を見せた。

ちなみにデザインが、どこかしらゲーム『ペルソナ4』の「クマ」からインスパイアされたように見えるのは、気のせいだろうか。
電撃 - 敵か、味方か? 『ペルソナ4』公式サイトに謎の“クマ”が登場!!


なお、冒頭のZAKZAK記事は審査委員長の名前が掲載されているのみで、幸福実現党の関与は指摘されていない。
しかし「論破プロジェクト」そのものが関与を隠していないのだから意味はないだろう。背景があからさまなプロジェクトに賛同する者も、正体を隠さない実行人も、脇が甘いという他ない。
韓国に反感をいだいている人々でも、カルト宗教が背景にあると気づけば、さすがに表立っての参加や賛同をためらうのではないだろうか。

*1:http://www.hermuseum.go.kr/jpn/sub01/sub0104.asp?s_top=1&s_left=4

*2:日本語化した引用文は、エキサイト翻訳を手直しせずに用いた。

*3:引用時、リンクや文字強調を排した。太字強調は引用時に加えたもの。以降の引用も同様。

*4:はてなブックマーク等で多数の指摘がある。http://b.hatena.ne.jp/entry/rom-pa.com/aboutus

*5:http://b.hatena.ne.jp/entry/rom-pa.com/でkybernetes氏が指摘している。