さて、最近の南京事件記事に対する反応を調べていた時に気にかかったのが、「がんばれ凡人!」という豆知識を集めた教育サイトだ。「一介のサラリーマン」*1というMr.凡人氏によって2002年に開設されたらしい。
http://www.h3.dion.ne.jp/~urutora/index.htm
はてなブックマークを見ると、コンスタントに人気を集めている。ほとんどコメントがついていないことが、本当に参考とされている危険性を感じる。一見するとシンプルで危険性の感じられないサイトデザインが、信頼感を与えるのかもしれない。
はてなブックマーク - http://www.h3.dion.ne.jp/~urutora/index.htm
しかし「凡人は歴史に学ぶ」というコンテンツで大正から昭和にかけてのページを見ると、あまりに危険と評さざるをえない。2002年のインターネットにおける状況も思い起こさせてくれる。
http://www.h3.dion.ne.jp/~urutora/bonpeji.htm
まず植民地経営に対しては「大赤字の植民地経営」という項で書かれ、「ふつう、植民地に大学などつくらないだろう」という漠然とした知識でもって賞賛をくわえている。下記の記述にいたっては、石橋湛山の思想を全く誤解させるような内容だ。途中で追い出されため進入に要した費用ほどの対価をえられなかったからといって、強盗が賞賛されるものだろうか。
しかも、朝鮮と台湾のいずれの場合も経営の収支は大赤字で、石橋湛山などはもうやめろと主張した。にもかかわらず、日本はせっせとカネをつぎ込み、道路をつくり、線路を敷き、工業地帯をつくり、社会資本を充実させ、あまつさえ教育を普及させようとがんばった。
盧溝橋事件に対しては、「盧溝橋事件の真相」と題して、中国共産党による陰謀説をとなえている。銃声がしただけなのに「銃撃を受けた」と記述していたり、日本が不拡大方針をとっていたと評するくらいは珍しくない。しかしインターネットでも見かけないような領域まで踏み込んでいるところが不思議だ。いったい何を資料としているのだろうか。他の項でもまともに情報源が提示されていないため、なぜMr.凡人氏が歴史修正主義を信用してしまったかも判然としない。
中国の現政権は日本軍による先制攻撃だったと主張しているが、日本軍が最初に銃撃を受けた際、つまり演習をしていた際、日本軍は実弾を持っていなかった。ところが国民党軍も同じように発砲を受けている。国民党軍は国民党軍で、日本軍によって銃撃を受けたと思い込んだ。
両軍は交戦状態に入ったが、そのうち双方とも、「どうもおかしい」と腑に落ちない点があり、4日後に停戦協定を結び事件不拡大方針で臨んだ。日本軍はこれ以上事を荒立てたくはないとの方針を立て、まして中国との全面戦争など望んではいなかった。
実は日本軍・国民党軍双方に銃撃を加え、両軍を戦わせるように仕向けたのは中国共産党だった。共産党の工作員が夜陰にまぎれて、盧溝橋付近に駐屯していた日本軍・国民党両軍に発砲し、両軍が戦いを始めるように仕向けたのだ。翌日には、中国共産党は「対日前面抗争」を呼びかけ、兵士宛てのビラには、「盧溝橋事件はわが優秀なる劉少奇同志の指示によって行われたものである」とうたわれていた。
また終戦後、中華人民共和国が成立した時には、周恩来首相も「あの時、我々の軍隊が日本軍・国民党軍双方に発砲し、両軍の相互不信をあおって停戦協定を妨害し、今日の我々の栄光をもたらした」と明言している。
そしてWikipediaでも外部リンクにくわえられているのが*2、「消された「通州事件」」という項だ。犯人は「中国人の保安隊」と記述され、日本の傀儡政権軍が起こした事件であることがわからない。事件の2日前に日本軍が保安隊を誤爆して死傷者を出した*3ことにも言及していない。しかも東京裁判で主張できれば日本の正当性を示せた事件であるかのように書いている。
戦後の東京裁判で、弁護団は通州事件についての外務省の公式声明を証拠として提出しようとした。しかし、ウェッブ裁判長によって、その申し出は却下された。この事件にふれてしまうと、日中戦争は日本だけが悪いと言えなくなってしまうという判断があったからだろう。
もちろん南京事件は否定し、「南京大虐殺はなかった!」というタイトルで、古典的な否定論を述べている。南京事件を裏付ける資料に対しても矮小化し、それに対する疑問はあいまいな伝聞口調だ。
唯一の「南京大虐殺」の記録とされるイギリスの新聞社の特派員による『外国人の見た日本軍の暴行』という本も、実際は一度も南京に行かずに伝聞だけで書かれたというし、戦後、新聞で大虐殺の証拠として発表されたいくつかの写真は、いずれも事件と無関係かインチキであることが分かっている。
集団自決に対しても「慶良間諸島の集団自決」という項で記述されているが、軍による強制を否定している。もちろん自決が軍の手榴弾を用いたことは記述されていない。
特に座間味島では「命令」があったとするただ一人の証言者だった女性が、島の長老に頼まれてウソの証言をしたことを告白したのだ。なぜそんなウソを言ったのか。
民間人が戦争で亡くなった場合、軍の要請で戦闘に協力したのなら、遺族年金などがもらえた。それが欲しさの口裏合わせだったという。「命令」を出したとされた隊長も、住民を守れなかった責任から敢えて沈黙し、不名誉を甘受していたのだそうだ。何とも、絶句・・・。
従軍慰安婦問題については、「アメリカの慰安婦募集」と題して米軍の慰安婦問題を強く求める内容だ。日本側が作ったRAAに対してGHQは許可を出したというのが通説だが、東京都の渉外部長がGHQ将校から「命令」されたと記述し、その後には狭義の強制連行どころか占領地での募集すら否定する記述で日本軍を擁護している。
アメリカ軍は占領している日本の女性たちから、軍の「慰安婦」を集めようとした。しかし、日本軍は占領地で慰安婦を募集したりはしなかった。
他にも、太平洋戦争を日本が自衛するため当然だったとマッカーサーが語ったという逸話等、ありふれた日本擁護論で目白押しだ。
しかし全体を見た限り、さほど強烈な排外主義者という様子でもない。Mr.凡人氏はインターネットで珍しい、自己学習によってデマを吸収し濃縮してしまった生活保守者といったところかもしれない。