あまりにあまりな見出しを見て苦笑し、記事の内容を読んで失笑した。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/100921/trl1009211414014-n1.htm
山口県光市で起きた母子殺害事件をめぐり、被告弁護団の懲戒請求を呼びかけたことについて、大阪弁護士会から業務停止2カ月の懲戒処分を受けた大阪府知事の橋下徹氏は21日、懲戒処分の内容が発表前に報道機関に漏れたことは「道頓堀でケツを出すより下品だ」と指摘。大阪弁護士会会長、副会長、懲戒処分を決めた綱紀委員会のメンバーについて、大阪弁護士会へ懲戒請求を行う意向を明らかにした。
橋下氏は、処分内容が事前に報道されたことは、弁護士会幹部が事前に内容を漏(ろう)洩(えい)させたためと指摘。「裁判で事前に判決が漏れることと同じだ」と批判し、懲戒請求することにしたという。
「自分を正当化する気はないが、しゃべってはいけないのは幼稚園児でも分かることで、こちらの方が下品だ。誰が漏らしたのかは分からないが、少なくとも誰かがしゃべっている。こんなことは前代未聞だ」と述べた。
同じように懲戒請求を行なったことを伝える朝日記事*1によると、以前に表明していたとおりに自身の処分は受け入れ*2、21日に弁護士バッジは返上したとのこと。
しかし処分が事前に報道されたことをもって懲戒請求を行なうとは予想外にもほどがあった。47NEWS記事*3によると「漏洩」された情報を報じたメディアへ「報道機関を責めているわけではない」と報道の自由について理解する態度をとっているというから、下手な人気取りとしか思えない。
しかも、この懲戒請求は冷静に考えれば通るはずがない。いや、よく指摘されるように弁護士会が自らを懲戒処分するはずがないとか、「道頓堀でケツを出すより下品だ」という発言こそ品位がないといった話ではない。もっと根本的な話だ。
まず、あいかわらず橋下弁護士(業停中)は誤解を招く表現をしているが、綱紀委員会に入っているのは弁護士だけではない。日弁連サイトに綱紀委員会の簡単な説明がある。
http://www.nichibenren.or.jp/ja/committee/list/kouki.html
綱紀委員会の委員の構成は、弁護士、裁判官、検察官及び学識経験者となっていますが、弁護士以外からの委員を加えているのは、より一層公正な審査、判断がなされるように配慮したことによります。また、審査の遅延を防ぐために予備委員が置かれています。
どのように裁判官や検察官や学識経験者を弁護士会が懲戒処分できるというのだろうか。
次に、懲戒処分を本当に事前に知らせてはいけないのだろうか。日弁連サイトには日本弁護士連合会会則もpdfファイル形式で置いてある。
http://www.nichibenren.or.jp/ja/jfba_info/rules/kaisoku.html
注目してほしいのは、懲戒について定めた「第八章」の、特に公表について定めた「第六十八条の二」だ*4。懲戒に関する処分または裁判の主文といったものを日弁連が公表することができると記してある。そして「2」を見ると、まさに処分に先んじた公表についても書かれている。
本会は、法第六十条第二項の規定に基づいて懲戒の手続きに付した場合及びその他会規に定める場合であって、本会又は弁護士及び弁護士法人に対する国民の信頼を確保するため特に必要があるときは、本会の懲戒に関する処分前であつても、事案の概要その他会規に定める事項を公表することができる。
つまり、会規に定められた懲戒処分について、国民の信頼を確保するため必要なら処分前に公表することができると明記されている。
この文章からは読み取れない条件が背景にあるかもしれず、たとえば「国民の信頼を確保するため特に必要があるとき」は厳しい判断が必要という可能性もないではない。しかし少なくとも、処分前に報道へ情報を流すだけでは、即座に会規に違反していることにならないことも確かだ。むしろ公表されうることを前提にした文章と読むことが自然に思える。
さて、それでは今回の処分を少しでも早く公表することが「国民の信頼」に繋がるかといえば……とりあえず国民の一人として肯定しておこう。むしろ何もかも遅いと感じていたくらいだ。
*1:http://www.asahi.com/national/update/0921/OSK201009210137.html
*2:先日の処分受け入れを伝える記事への感想はこちら。処分をかためる方針の時点で報道された文章も引用してある。http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20100918/1284820897
*3:http://www.47news.jp/CN/201009/CN2010092101000438.html
*4:29頁。pdfファイルでは15頁目。