法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

しごく“普通”に笑えない

藤岡信勝 VS 八木秀次:愛ゆえでせうか? - Stiffmuscleの日記
Stiffmuscle氏のブログで知った、日本教育再生機構サイトの「Opinion leader の声」を見ていて、さかもと未明の提言に少しばかり頭をかかえた。
http://www.kyoiku-saisei.jp/cgi-bin/auto/mh_load.php?mode=15
強調は引用者。

 「どうして私は、両親や祖父母のように、強く生きられないのだろう」
 自分自身に対して感じた、そんな不甲斐なさが私の教育への関心の発端です。
 私は昭和40年生まれですが、私たちぐらいの世代から、保健室登校やひきこもり、といった現象が現れてきたように感じます。豊かな社会にありがちな病理といってしまえばそれまでなのでしょうが、そういった時代を象徴するように、私には「あたりまえの欲望を持つ」という能力が決定的に不足していました。
 「もっといいものが食べたい」「世の中に貢献したい」「将来は家庭を持ちたい」。そんな欲を普通に持てたならばそれなりに楽だったのでしょうが、欲望を持つことにも一々理由付けが必要に思え、さんざん反問した揚げ句に、「人を押し退けてまでする必要はない」などと結論づけてしまうような子供だったのです。これは本人にはなかなか辛いものがありました。
 なぜそんな思考態度になったのか。考え続けてきて得た結論は、「まず疑え」「自分の頭で考えろ」「自由かつ多様にいきよ」などといった、戦前の日本に対する懐疑主義自由主義に起因するところが大きいのではないかということです。人間は、ものごとの意味や価値を考えてから行動しようとしたら、実は動くことができなくなる。
 「国を愛し、親を愛し、国のために全力で尽くし、次世代を育てることはよし」と最初から信じられるほうが、いいことが多いのではないでしょうか。なぜなら、そこを疑い、何も行動しないでいたら、人生は始まらないうちに寿命が尽きてしまいます。第一、その上にさらにしなくてはならないこと多くがあるわけですから。
 こんな仮初めの自由のなかで「何か見つけなくては」などとさまよう私たちより、「国に貢献し、親に尽くし、子供のために生きる」のが幸福だと信じて働くことができた両親までの世代のほうが、よほど幸福だった気がします。「疑う」ことが科学的態度として大切な場合もありますが、人間としての生き方の大部分は、刷り込まれるべきものが実は多い。駄目なものは駄目で、いい物はいいのです。それなのに、そこをきちんと教育しなかったから、「なぜ人を殺してはいけないのか」などとうそぶく子供たちがたくさん出てきたのではないでしょうか。
 早急になされるべきは「国民の信念」とでもいうべき人生の大前提の育成なのではないか、と私は思っています。それが持てれば人間は働けますし、能力も伸びます。そんな国民が増えれば、国もまた強く豊かになっていくことができるでしょう。
 インフラ投資より何より、大切なのは人材への投資、国民の教育再生です。人間がしっかりしていれば、国や経済はいくらでも持ち直せますが、人間が駄目な国では、いくらインフラが整っても駄目なのです。
 国民に懐疑ではなく信念を与えることが、なにより危急の仕事でしょう。教育再生、将来の日本の再生をぜひ日本教育再生機構が実現してくださることを、心より祈念しています。

根拠が感覚でしかない“昔は良かった”論は批判するまでもないだろう。問題は後だ。
私は、夢や希望を語る世界しか漫画に描かれないということが、あってほしくはない。今という時代の生き難さ、息苦しさを描くマンガは必要だ。それを自己の心情として吐露する漫画家も存在していいだろう。
しかし、それでも冒頭の語りは心に痛すぎる。「自由」を恐れ、全く疑わずに寄りかかる対象として国家を求めていると堂々とさらけだしているのだから。
はたして、国民が懐疑を持たないよう教育する国家で、さかもと未明氏は漫画が描けるのだろうか。


逆に面白かったのが、「サムライの出現が待たれる」とした二宮清純*1が出した提言の末尾。
かなり前に発表された文であり、すでに指摘された人が何人もいたと思うが……

 日本サッカーの多くの指導者はこれまで突出した個性を伸ばさず、ひたすら“金太郎アメ”ばかりこしらえてきました。これでは世界では戦えません。「千万人といえども吾往かん」そんな気概を持った真のサムライの出現を待ちたいものです。

……いや、主張している内容は正しいかもしれないが。「サムライ」という単語や勇ましい掛け声を除き、日本教育再生機構の主張と正反対じゃないかと思うのだが。載せた側としてはどうなのだろう。

*1:サッカーを中心とするスポーツ・ジャーナリスト。TBS系のスポーツ番組でも時々解説者として見かける。