杉下右京に異常な脳波が見つかり、くわしく検査するため入院することになった。そこの院長は研究が専門で、まかされた病院の経営がうまくいかず、コンサルタントのライリー・櫻井をたよることに。そしてコンサルタントとして入りこんだ詐欺師と警察の対決がはじまった……
詐欺がおこなわれることは次回予告につかわれた台詞で明らかにされており、その台詞の対象が意外な相手という一種の叙述トリックでもないかぎり、今回の事件の全体像は見えすいている。
このドラマに登場してきた詐欺師は内部外部の犯罪者と対決したり騙し騙されることが多かったが、今回の詐欺師チームは櫻井という男を中心に一丸となって詐欺をはたらく。追いつめられれば仲間に責任をかぶせようとするが、それも責任を分散しつつ不明瞭にして罪を軽くする予備的な策略だった。そのような強敵ゆえ、特命係も一課や二課と一丸になって動く。全体から細部まで視聴者に開示されているので意外性や駆け引きで楽しませるコンゲームとしては弱かったが、多数の俳優をつかって大規模な犯罪と捜査が1時間枠につめこまれて濃密。
そして物語は櫻井のプロフィールにわけいっていく。社会からドロップアウトした連中をあつめて詐欺をはたいた櫻井は、かつて最も社会から見捨てられ、そこを伝説的な詐欺師に救われていた。手のこんだ回想描写や櫻井の過去が隠されたロケ地とセットが、映画版『砂の器』を思わせる。あえて大金を堂々と隠していたことに、自分を見ようとしなかった社会への皮肉があると杉下は読みとる。コメディタッチのクライムサスペンスに見せて、意外にウェットでリリカルな余韻とともに終わる。ちょっと普段とは一味違う、スペシャルな印象のエピソードとして面白かった。