中盤の世界の様々なポンコツ事件が、意外と面白い情景が多かった。自然と人間が衝突する、環境問題を実感させる風刺的な出来事として完成度が高い。
樹木を植えた中国のビルで蚊が大量発生して解決まで入居者が激減したり、曲面のアーティステックなビルの窓に反射した太陽光線で駐車場の車両が損傷したり。
太陽熱で溶けてしまった蝋人形のリンカーンも、スタジオで指摘されたように結果として地球温暖化を象徴する芸術になったと感じられた。
「南米国境警備隊」は番組恒例の国境警備隊シリーズ。全体的に麻薬を隠しているパターンばかりで、シルバーラックの枠内に液状コカインを隠した手法が目を引いたくらい。
他に面白かったのは、ペルーに無申告で大金をもちこんだ女性だが職員が数えてみると申告不要な金額にギリギリおさまっていたり、物価の安いベネズエラからコロンビアへ食肉をもちこんで転売しようとした不経済かつ不衛生なエピソード。
「北朝鮮をロックした日」は、スロベニアの過激ロックバンドのライバッハが、MV監督の縁から朝鮮民主主義人民共和国に呼ばれてライブをおこなった記録。
2016年に公開された長編ドキュメンタリ『北朝鮮をロックした日 ライバッハ・デイ』のダイジェストらしい。
ライブにつかう映像を収録したHDDは没収され、用意していた歌もはっきりしない理由で次々に禁じられていく。たとえば独自にアレンジしたドレミの歌に対して、北朝鮮風の人物画に楽譜をのせた背景映像の人物画は不要という要求がライブ直前についたりする。バンドメンバーの推測とあわせて考えると、観客に考えさせるきっかけとなる新しい情報を少しでも排除したいようだ。
一方、北朝鮮側は約束した機材がきちんととどいていないし、会場の電源はむきだしのコードでひとつに集約されている危険ぶり。バンドを厳しく管理しようとするわりに、北朝鮮側のスタッフは意外なほど粗雑に投げやりに仕事をしている。
そしていざ開催してみると、ロックコンサートでありながら観客は屋内で座席に座り、クラッシック音楽の鑑賞のように静まりかえっていてライブとしてはもりあがらない。
内容自体はすべて予想通りではある。しかし全体主義の管理社会が実際には管理すらされておらず、末端の思考をおそれてうばって非効率になっていくだけなことを、ライブ開催までのゴタゴタで実感できた。
「アメリカ軍の大誤算」は、冷戦時代にソ連の核兵器に対抗するため米軍が中立国のグリーンランドの土地を借り、こっそり氷河内部に核ミサイル基地を建設した歴史を紹介。
1959年から1966年にかけて、米国は大量の物資と機材と人員を投入して、秘密基地を建設しようとした。氷河に深い溝をほり、人力で板をアーチ状に曲げて乗せて天井にして、上に雪をかぶせていく。下記ページがくわしい。
シリーズ「南極観測隊の生活を支える技術」第2回 | 公益財団法人日本極地研究振興会
内部は暖房がきいていて、運びこまれた食料も大量で、きちんと調理されて食堂にならぶ。動力源につかう小型原子炉のみ、予想外に放射線量が高かったため鉛などで遮蔽したが、おおむね超大国らしい余裕ある生活と研究がおこなえたらしい。
当時は貴重だったカラーフィルムで精彩な建設風景が撮影され、まるで今現在の出来事を映しとったかのよう。撮影禁止だったミサイル用トンネルもスタッフがこっそり撮影していた写真が紹介された。
しかし氷河に建設したため、年月の経過とともに少しずつ基地は押し流され、壁が崩れていく。安定した氷床につくらない特別な理由があるのかと思いきや、まさかのノープラン。いくら修復しても崩壊を止められず、数年で基地は放棄された。冷戦も終わり、つかわれなかった秘密基地の情報は1990年代に公開された。
……これだけでも技術力のある超大国とは思えないポンコツぶりだが、問題はまだ終わらない。小型原子炉は回収したが、核廃棄物はそのまま氷の下に放置されたまま米軍は撤退していた。その放射性物質が温暖化で流出して海を汚染する懸念が出てきて、グリーンランドの元首相アレカ・ハモンド*1が激怒する。一応は米国の調査では許容範囲の放射能汚染にとどまったとされるが、気候変動の進行によっては甚大な問題に発展しかねないふくみを感じさせた。
超大国のやらかしは波及がすさまじくなることを直前の北朝鮮との比較で実感した。国家の体制としては米国のほうがずっとまともなはずだが、行使した影響力のぶんだけ問題もおおきくなるし、それゆえ世界に対して重い責任を背負うべきなのだ。