法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『推しの子』TVアニメ2期までの雑多な感想

 愛していないという嘘を自他について相手に愛してもらおうとする漫画『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』でスマッシュヒットを飛ばした赤坂アカが原作にまわり、愛しているという嘘をつきながらそれを本当にしようとする芸能人を描いた新作で大ヒットを飛ばした。
 前者のスマッシュヒット作はマンネリを恐れないワンパターンでの長期連載が可能だったが、後者の大ヒット作は心情が変化していくというビルドゥクスロマンを長期で展開できるポテンシャルがあった。


 TVアニメは2023年に1期、2024年に2期が放送され、2026年に3期が予定されている。原作は連載初回を読んだことがあるだけで、以降の展開はインターネットの評判で間接的に知っているだけ。

 まずTVアニメ3話分の尺をつかった第1話を視聴すると、あくまでマクガフィンだったらしい黒幕兼父親探しが単独ではノイズではあるが、伝説的なアイドルの半生を描いたドラマとしてきちんとまとまっている。
 サスペンスを作り出す実行犯にしても、動機からプロフィールまでシンプルに説明できるわかりやすさがありつつ、ちゃんとアイドルの言葉によって血肉をもったキャラクターに変化するので、実行犯に特に背景のないままサスペンスドラマパートは1話で終わっても良かったくらいだ。生まれ変わりの設定も、秘密を隠したアイドルの懐にファンの一般人が入りこみ、透明な壁をへだてて接写する視点として意味がある。
 原作を読んでいない上での想像になるが*1、黒幕兼父親にもアイドルというモチーフや愛というテーマに密接な設定を用意して、ミステリとしてそれなりに楽しめる意外性と納得感がもう少し用意できていれば、もっと完結後も評価を高く維持できたかもしれない。どちらにしても、この第1話だけは完結した作品として楽しめる。


 以降の物語は、アイを妊娠させた主人公の父親さがしというマクガフィンで主人公を芸能界につきすすませつつ、さまざまなかたちで芸能界において挫折したり停滞した人々を再起させていく。もうひとりの主人公はアイを追いかけるようにアイドル活動につきすすむ。
 芸能界の汚さを描いていることもあって悪趣味サスペンスの雰囲気が色濃いが、各エピソードにおいて設定された課題と解決の構造そのものはタイムリープや若返りによるやりなおしの物語になっている。その意味では各エピソードごとの再起のドラマは水準的に楽しめた。


 2期の大半をしめる2.5次元の舞台劇も、実質的に原作軽視で終わった配信ドラマのリベンジというやりなおしの物語になっている。
 もともと1期での配信ドラマも2.5次元も作中作はそれほど面白いものではなく、現実でヒットしている作品を想起させることで物語として成立させている。
 原作者が軽視される1期から逆転して原作者が無茶ぶりをするよう構図になり、演劇側に現実のようなパワハラモラハラは見られない。ここでメディアミックスに対する距離感が異なる漫画家師弟の衝突の第14話が独立したエピソードとして良い。連載で無茶を重ねてきた弟子に、背景などの力の抜き方を考えるべきと師匠が諭し、その後の脚本会議で優先順位が低い描写を楽しく削除していくことになる。TV2期の範囲では語られなかったが、連載でも優先順位をつけて力を抜いていけるようになる展開になるのだろうか。
 ただ全体として感情を乗せるメソッド演技を重視しているところは気にかかる。他の演技を真似ている主人公が反応が遅れがちという理屈をつけて、ドラマや映画ではなく舞台劇だからこそメソッド演技が求められるようになったという理屈はそれなりに説得力はあるが……ひとりくらいは感情をまったく乗せずに演出家や周囲を観測しながら計算で演技をおこなう名優を出しても良かったのではないか。
 第17話以降、エピソードの中心となるキャラクターごとに異なる心象風景で絵柄やタッチを変えたアニメーションパートがあるところも楽しかった。id:kanose氏が好きそう。

*1:TV2期の中盤を視聴している時に黒幕と父親は別個にしたほうが話を進めやすいだろうと思った。実際の真相は知らないが、あまり良い評価がされていないらしいことは知っている。