金銭がすべてという価値観のゼニー星で、スターカラーペンがオークションに出品された。香久矢の機転で競り落とせたかと思ったが……
脚本は村山功シリーズ構成で、作画監督は高橋晃キャラクターデザイナーというメインスタッフで、宇宙アイドルかつ宇宙怪盗な少女マオの初登場を描く。スタジオダブらしい堅実な作画で、ライブシーンもアクションシーンも演出の要求にこたえて無理なくこなしていた。
コンテは田中裕太で*1、キャラクターを使ったワイプ演出の多用が目を引いた。他にもキャラクターを画面前面に太い描線で配置したりと、今回はキャラクターを素材として切り抜いて使う傾向がある。
物語は、いきなり冒頭から異星を舞台にしてテンポ良く進む。こういう各地をまわる展開を『ハピネスチャージプリキュア!』に少し期待していた記憶がある。
ただ過去の異星エピソードと比べて、あまりSF設定の面白味はない。新たな主要登場人物の活躍を重視して、むしろオークションの形式などが地球の文化そっくりだからこそ成立する物語になっている。
ひとつだけ、地球ではごくありふれた庶民の菓子にすぎないドーナツを、あたかも高い価値のある物品のように称して物々交換をしかける展開は、価値観の違いを描いたスコシフシギな面白さがあった。実際に藤子F作品の『チンプイ』に、星ごとの価値の違いで交易をしかけようとするエピソードもある。
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ただ、実際にドーナツの味で食通がうなって金銭的価値を確定させたのは、あまり好みではなかった。誰も知らない異星の菓子が、物珍しさ以上の価値が実際にあるのでは、あまり文化のギャップが感じられないし、過去回のような相対化の面白味も弱い。味は秘密にしたまま宇宙アイドルへのプレゼントという位置づけから期待させて、相手の想像をあおって価値をつりあげていく展開を見たかった。
とはいえ、あまり本筋を複雑にすると、マオの多面性を描く余裕がなくなったかもしれない。敵組織によって怪物化もされるオークションのライバルもキャラクターとして立たせなくてはならなかった。対立構図が多くて複雑なだけに、設定は単純化しておくという判断も間違いではないだろう。
なぜプリキュアを宇宙アイドルがオークション会場に入れてあげたかなど、細かな違和感にていねいな説明を入れる村山脚本回の良さはあったし、けして悪い内容ではない。