法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

加計学園をめぐる愛媛県新文書への「検証」を見て、靖国参拝をめぐる富田メモへの「検証」を思い出す

首相動静で会見が確認できないことや、強調と思われるフォントの違いなどをもって「捏造の可能性が非常に高い」と結論づける「検証」が人気を集めている。
「安倍首相が『獣医大学はいいね』」愛媛県新文書に記録と報道⇒検証⇒捏造の可能性が非常に高い - Togetter

もちろんエディタで変えられるフォントの違いは何ら捏造の傍証にもならないし、首相動静が総理大臣の全行動を記載しているわけもない。
netgeek「朝日新聞が証拠隠滅」はデマ 加計学園の新文書めぐりネットで拡散

「首相動静」「首相日々」などの欄は、首相の1日の行動記録が載っている。しかし、全ての面会相手が網羅されているわけではない。

各紙の担当記者が張りついて記録をとっているが、首相官邸には複数の通用口があり、お忍びで人と会うのは難しくないからだ。

そもそも、加計学園設立を熱望していたという設定の愛媛県側が公文書として提示したということ、それ自体に重みがあるということも忘れてはならない。


一方、昭和天皇A級戦犯合祀を批判する富田メモ日経新聞で報じられ、やはり筆記具等が疑惑あつかいされ、『週刊新潮』なども報じて、池田信夫氏なども加担していた。
池田信夫 blog : 富田メモは「世紀の大誤報」?

これは天皇のオフレコの話を富田氏がメモしたものとも解釈できるが、全体が徳川氏からの伝聞で、[4]の部分が徳川氏自身のコメントだということも考えられる。いずれにしても、このテキストによる限り、どこにも主語が天皇だとは書かれていない。

通常の文献考証の手続きとしては、少なくともこの糊付け部分だけでも全文を解読し、筆跡鑑定をするとともに、発言者がだれかを確認することが第一である。ところが、こうした基本的な調査もしないで、「首相の靖国参拝に影響」とか「勢いづく分祀論」といった政局ネタだけは一生懸命追いかける。

実際は保守派の研究家3人*1が検証して太鼓判を押していたし、昭和天皇靖国参拝をやめた説としては以前から有力視されていた。

どちらも文書の提示された文脈や、報道の過程でおこなわれただろう調査を想像せず、報道で抽出された断片のみをもって否定しようとしている。そのような「検証」も自由ではあるが、きわめて困難だという自覚が足りない。
どれほど通説をくつがえす内容なのかという資料そのものの重みも無視している。あえていえば、愛媛県新文書も富田メモも通説の裏づけにすぎず、公式に出されたことそのものに重みがある。公文書改竄スクープほどの意外性は良くも悪くもない。
そして、公文書改竄をへてなお内閣が責任をとらないかぎり、もし愛媛県新文書が捏造によるものだったとしても知事らに責任をとらせることは難しいだろう。残念なことに。

*1:紹介する書籍の著者のひとり半藤一利氏および、秦郁彦氏と保阪正康氏のこと。