法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『SONG OF THE STORK コウノトリの歌』

シンガポールベトナムが合作した2001年の映画。はじめてベトナム側からベトナム戦争を映画化した作品。
現代と当時をさまざまな技法で行きつ戻りつ、記録映像や再現映像をはさみながら、解放軍の広報カメラマンだった主人公がベトナム戦争の記憶を訪ね歩いていく。


前半は、妻を残して戦場に出た詩人や、年齢を偽って志願した少年など、古典的な戦争映画らしい描写がしめる。訓練シーンや渡河中の空爆、米軍陣地の攻略など、それなりの見せ場はあるが短い。
後半は、南軍の将校一家にとりいって娘婿となる諜報員の物語がほとんどをしめる。華々しい解放が夫婦を徹底的に分断する皮肉は、南北に分断された国家らしい痛みをよく描いていた。さらに解放後の夫にまつわるゴタゴタは、難しい題材を描いてきた物語において、ほっと一息つける楽しさがあった。
後半の物語が独特で面白かっただけに、広報カメラマンの追憶劇という趣向におさまりきらない感もあった。後半の題材にしぼって一本の映画にすれば、もっと物語としてまとまったかもしれない。


映像面については、特撮がほとんど使われていないかわり、本物の戦車が3台ほど登場して、地上戦らしさを盛りあげる。ベトナム戦争映画といえば最新兵器を使う米軍に対してゲリラ戦で応じるベトナム解放軍という構図が多い。ベトナム解放軍側が戦車を用いて敵軍陣地を攻略していく描写は新鮮だ。2000年代の作品としては戦闘演出が甘めだが、稼働する戦車を切りとった構図は全体として美しく、独特の良さがあった。
ベトナム戦争映画ではロケーションの関係で熱帯雨林らしさが表現されていない作品が多かった。この作品では気候がベトナムらしく表現できていることはもちろん、はてしなく広い田園地帯や、植民地政策によって都市化されていた場所も登場し、期待以上の新鮮な風景を楽しむことができた。
戦場において折鶴そっくりなコウノトリの折り紙が登場し、個人的に戦死者へたむけられたりと、ベトナム文化をとらえた描写も興味深い。


ハリウッド映画がどれほどベトナム戦争を反省的に描こうとも、基本的に敵兵士や現地人は他者として描いてきた。しかし解放軍側の記憶を物語化したこの作品では、神出鬼没のベトコンとして怪物化されることも、神秘的なアジア人として美化されることもない。大学生の抗議活動は過去から現代にいたるまで世界中で見られる光景とそっくりで、新兵が訓練する場面もハリウッド映画を模しているかのよう。
映画としては古典的すぎて凡庸に感じる描写もあったが、それもふくめて人間の普遍性と対等性を感じさせる作品だった。