法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『アウトブレイク・カンパニー』第3話 汝の名は侵略者

いかにもな欧風ファンタジー世界に通じる亜空間ゲートが、日本国内で発見された。そこで異世界文明と接触した日本政府は、サブカルチャーを輸出する半官半民組織を秘密裏にたちあげる。
その総支配人に選ばれたオタク少年は、皇帝やメイドといった現地の少女と仲良くなりつつ、政府の思惑や異文明との衝突にまきこまれていく。


講談社ラノベ文庫の、榊一郎アウトブレイク・カンパニー 萌える侵略者』をTVアニメ化した作品。原作は未読。
とりあえず映像は悪くない。繊細なキャラクターデザインをていねいに作画し、色彩や撮影でグラデーションを表現している。ただしOP映像が第2話まで未完成だったりと不安も残る。
物語についていうと、導入はよくある設定のローファンタジーで、主人公の発情ぶりも極端すぎて人格が感じられない。最近の人気作品からの引用が多い一方、さすがに流行や「萌え」に偏りすぎではないかとも感じていた。
メイドや皇帝との三角関係ラブコメっぽい衝突から階級社会に直面していくのも、ちょっと気のきいた設定説明にとどまっていた。優しい旦那様であることや、異世界からの珍しい客であるというだけで、複数の少女が主人公に好意をいだく展開も早すぎる。


しかし、主人公がメイドや皇帝に日本語を教えていった延長で、ひろく文化をつたえるための学校を作ろうとした今回は面白かった。田中宏紀*1原画と思われる素晴らしいアクション作画が楽しめただけでなく、物語も興味深かったのだ。
あらすじ|TBSテレビ:アウトブレイク・カンパニー 公式ホームページ

慎一が異世界に来てから早一ヶ月。屋敷での勉強会だけでは手狭なため、エルダントではオタク文化を伝える学校の建設が着々と進んでいた。一見順調に進んでいるかに見えた<アミュテック>の活動だったが、学校の完成日に不穏な影が迫っていた・・・。

古いアニメもチェックするようなオタクならば、戦前にプロパガンダのため制作された長編アニメ映画『桃太郎 海の神兵』を思い出すところだろうか。欧米の植民地になぞらえて動物たちを解放した桃太郎が、日本語の教育をほどこしていくグロテスクな描写。
現地の階級社会を批判して、文化をつたえたり教育することは一見すると正しい。しかしそれは植民地主義につらなる傲慢さのあらわれでもある。たいていは自国の利益になる範囲にとどまるし、結果責任をとることや継続性も期待できない。そうして現地の固有文化や自由意思をふみにじり、しばしば発展の萌芽をつみとって終わる。
その問題に、この作品は当初から自覚的だった。ふりかえると過去回でも、異世界の差別に違和感をおぼえる主人公に対し、それは地球にも残っているという指摘がなされていた。


そして開かれた学校で、教室に入るのは貴族の子供たちだけ。少年兵として育てられている被差別民族などは遠くから見るだけにとどまっていた。
そこに皇帝へ反旗をひるがえす勢力が乱入してくる。ここにきて初めて登場した、輸出文化を拒否する異世界の住人だ。ただし下層階級が反旗をひるがえしたのではなく、むしろ民族差別でなりたっている階級社会の固定化を求め、現皇帝の退陣を要求するような保守勢力ではあった。しかし、この描写を序盤にいれるだけでも、今後に文化衝突を掘りさげるための余白になりうるし、たとえ忘れられてもエクスキューズとして活きつづける。
ついでに、反乱者が思想こそ硬直的でも、主人公の詐術に乗らなかったりと、けっこう戦闘で頭を使っているところも良かった。独立した人格が感じられるからこそ、対立すべきキャラクターとして成立する。
しかもこの反乱劇は、主人公に向けられている好意が物語の都合だけではないという説明にもなっている。皇帝は階級社会の象徴でありつつ、本人の性格は、異世界において先進的な部類というわけだ。文化の輸出を積極的に受けいれて学校建設まで協力した背景として理解できる。
世界観の説明描写がそれだけで終わらず、登場人物の立場を位置づけるという作劇としての意味を持っているのだ。


おそらく原作からして「萌える侵略者」というタイトルから考えて、日本側が文化侵略している構図に自覚的なのだろう。省略されたTVアニメ版タイトルも、よくよく考えれば「アウトブレイク」という単語が生々しい。
もちろん物語が今後にどのような展開をしていくのかは不明だ。最終的には植民地主義に対して事実上の肯定をしてしまうのかもしれない。それでも、そうした展開に批判がありうることを自覚して、物語として昇華してみせただけでも良かった。作品のメインテーマに対して違和感をおぼえても、対立する思想がエクスキューズとして入っていると、ずっと見やすくなる。
あとは、主人公の極端な性格に納得できるような描写もほしいところ。知識のあるオタクなだけで幸運にめぐまれたことについては理解できる。しょせん切り捨てられる対象として国家機関から便利にあつかわれているだけということは、拉致された経緯や上官の態度から示唆されている。しかし、そのためだけに幼い性格の人間が選ばれたということは、さすがにあるまい。

*1:最近では、TVアニメ『進撃の巨人』第7話のクライマックスが代表的な仕事だろうか。http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20130614/1371241956