男性に騙されたり消えられては東に移り住んできた女性、肉子。今は港街に停められた船で一人娘と暮らし、焼肉の個人店で働いている。その一人娘は学校にかよい、友人をつくりながら、子供社会の面倒に巻きこまれていくが…
明石家さんまプロデュース、渡辺歩監督による2021年のアニメ映画。西加奈子の原作小説は未読。
『海獣の子供』につづいてスタジオ4℃制作、キャラクターデザインと作画監督が小西健一。アニメーターとしても演出家としてもシンエイ動画で暴れまわっていた渡辺歩に期待される作画アニメをやりきった、アニメーションとしては相当の快作。
キービジュアルは悪くないが普通のファミリーアニメの延長と感じて期待していなかったが、本編はシネマスコープサイズで隅々まで神経のいきとどいた作画、見やすくも空間がはっきりしたレイアウトで全体が構成されている。
ぷるんぷるんした肉子の動きは渡辺歩監督版の『ドラえもん』のジャイアンを思わせる。もっと全体的に人物をデフォルメしたアニメかと思いきや、主人公の少女など瞳は大きいが関節や立体感などが生々しい。むしろ肉子だけが特異的にアニメ的な作画で描かれている。
舞台のディテールもけっこう良くて、実景を安易にひきうつしたわけではない。客がいない格安の町営水族館や、カラフルな箱物の建物がひとりの少年を包摂するために機能しているところなど、現代的な長所短所もふくめた良い漁港なのだと思えてくる。
物語は……実写邦画なら珍しくとも前例はあるだろう物語を、高精度のアニメ映画として作ったことで相当に特異な作品になっている。美しくなくてアニメファンにも性的に受容されにくいデザインの女性を主軸にして、その女性がセックスワーク当事者だった過去を隠喩的に描写*1するアニメがどれだけあるだろうか。
少女との愛憎劇を見て、主人公とその母親は、自身はノンケなのにレズビアンをひきつけてしまうタイプなのだろうか、と思ったりした。実は肉子は第三者的に観察される立場で、視点人物となる事実上の主人公はモノローグの多い一人娘だ。前半は子供の社会での衝突や政治が重視されているし、後半も肉子の娘という立場がゆるがされることで物語が動いていく。
ただし、人が母になることを……それがどれだけ愚かな人でも……肯定する物語とはいえ、主人公に初潮がきたことを祝福して終わるのは、ちょっとどうなのかと思った。主人公自身は初潮が来ずに女性らしくならない自分を喜ぶ独白までしていたのに……その直前に突然の腹痛で入院して後から盲腸炎と判明する場面があるのだから、その場面で前振りもかねて月経についての主人公の考えの変化を明示してほしかったし、女性らしくならない自由も否定しないエクスキューズも入れてほしかった。最後の肉子の表情は、必ずしも歓迎できない事態であっても相手を祝福して肯定するのが肉子という女性なのだ、と思えば平仄はあうのだが……もう少し繊細にあつかってほしかった。
*1:金を稼ぐために大量のキノコを採っている場面は明らかにそうだろうし、性行為が必須ではなくとも風俗産業に近しい接客業についていた過去は明示されている。