法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ONE PIECE エピソード オブ メリー〜もうひとりの仲間の物語〜』

すでにアニメ化されている本筋から主軸となるモチーフをひとつ選び、完全新作映像でリメイクする企画の第五弾。今回は冒険の序盤に贈与され、つい最近に役目を終えた主人公の海賊船、ゴーイングメリー号追想する。
ニュース | ワンピース 公式サイト 東映アニメーション

ルフィとウソップの決闘やロビンの失踪など波乱の展開から、メリー号との別れまで、『ワンピース』を初めて見る人さえも涙なしには見られない!

前々回のリメイク企画を担当した所勝美が監督と演出をつとめ、現シリーズ構成の上坂浩彦が脚本。井上栄作がキャラクターデザインと総作画監督を担当した。


映像面では不満なし。多くの作画監督原画マンがEDにクレジットされ、かなりスケジュールが厳しかったことがうかがわるところを、よく乗り切っていた。
何度かあるアクションパートの見ごたえは充分で、作画の統一性に不満も感じなかった。特に冨田与四一が全体を担当したとおぼしきルフィ対ウソップは、ぐりぐり動くカメラワークに艶やかなキャラクター、滑らかなエフェクトが絶品だった。
また、挿入歌とEDはおちついた表現が選ばれていて、原作の狂騒的な語り口があわない視聴者としては楽しめた。


物語面は非常に厳しい。特に、描写するべきことの取捨選択がまずい。あくまで原作かTVアニメ本筋を記憶している視聴者が、クライマックスを手軽に楽しむダイジェストとして見るしかない。もし初見の視聴者が感動できたとしても、それは表層のキャラクター演技に助けられてのことであって、ドラマの背景を理解した結果ではないだろう。
どのような思い入れで動いているか敵も味方も描かれず、その場の目的だけ説明しているので、キャラクターの感情を追っていくことが難しい。発端や伏線を結果の後で見せるという短縮手法も多用しすぎで、キャラクターの感情を追いにくくさせている。


もちろん、これまでのリメイク企画で最も長大なエピソードという企画そのものの難しさは理解する。第一弾の映画『エピソードオブアラバスタ』*1からして、敵味方がいれかわったり新しい仲間が加わる大エピソードを無理やり一本にまとめ、不評ではあった。その大エピソード内で仲間が加わる小エピソードが、第二弾の映画『エピソードオブチョッパー+』*2になったくらいだ。今回の第五弾は、その第一弾をふくむさらに長大なエピソードをまとめている。
それでも、新しい仲間が知らないメリー号の記憶をウソップが教えているという構図なのだから、せめて話者に視点に集中させるべき。メリー号と関係ない出会いや別れは説明しなくていい。
そうして活躍するキャラクターをルフィとウソップにしぼり、フランキーも船大工としてのみ描写するくらいの工夫はできたはず。他の仲間はメリー号にかかわる操船描写だけにして、戦闘描写すら皆無でいい。
メリー号の活躍につながるとはいえ、ロビン救出戦*3が後半の多くをしめているところもバランスが悪い。もともと海賊の敵である海軍との戦いなのだから、ただ捕縛された海軍基地から脱出するだけに改変しても成立する。それよりウソップが「そげキング」として仲間のもとへ戻った経緯を説明するべき。
ルフィの後半の活躍も、強化能力描写を中途半端に省略するくらいなら削除していい。かわりに、ウソップと出会ってメリー号を入手する序盤の戦いを、現在の映像技術でリメイクするべきだったのではないか。

*1:感想はこちら。http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20110820/1313880188

*2:感想はこちら。http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20110319/1300573406

*3:TVアニメでは放映枠移動と重なったために分断されてしまったエピソードではあるが、リメイクしたかったのだとしても今回にやる必要はない。