法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ETV特集』ネットワークでつくる放射能汚染地図 〜福島原発事故から2か月〜

東日本大震災の3日後から独自に現地入りした研究者達を追い、暫定的な放射能汚染地図が作られるまでの日々を描く。序盤だけ見て放置していた録画を最後まで視聴した。
【ETV特集】「ネットワークでつくる放射能汚染地図~福島原発事故から2か月~」2月12日(日)午後4:05総合テレビで再放送

番組は、放射能汚染地図を作成してゆくプロセスを追いながら、原発災害から避難する人々、故郷に残る人々、それぞれの混乱と苦悩をみつめた2か月の記録である。

5月15日に初放映された時点で多くの情報が既報となっていたが*1、わかりやすく映像化して全国地上波に流す意義はあったと思える内容だった。すでに続報が6月に放映され、8月28日には第三報の放映が予定されている*2


基本的な番組構成としては、計測のため移動する研究者を追いながら、被災者の不安や情報の周知不足、政府行政や関係機関の連携不全といった周辺情報を拾いあげていく。あたかもよくできたロードムービーのように。
番組中の情報こそ古びていくだろうが、放射能汚染状況が徐々に社会へ周知されていく過程の記録としても興味深く、再視聴に耐える内容だろう。


上司に独自調査を禁じられた木村真三博士が辞表を提出したことが冒頭で語られたり、苦悩し決断する被災地の声を拾ったり、愛犬との別れを描いたりもしているが、そうして切り取った題材に比して淡々と構成されている。放映当時の賛否両論は放射能汚染が波及している現実への反応と考えるべきで、あくまで番組は現実を反映していただけという感想だ。
ETV特集 ネットワークでつくる放射能汚染地図 ~福島原発事故から2か月~ - Togetter
「ETV特集 ネットワークでつくる放射能汚染地図 ~福島原発事故から2か月~」の番組に対する批判 - Togetter
しかしこの回は注目を集めたこともあって、上記Togetterに限らず賛否両論に枠自体への誤解も散見される。『ETV特集』を定期的に見ている者として、いくつか私見混じりの説明をさせてもらう。
まず、番組が圧力で再放送されないといった陰謀論も流れたが、後日深夜に再放送されることが通例の『NHKスペシャル』と違って、もともと『ETV特集』は地上波再放送されることが少ない。再放送されるとしても日曜昼ごろのような気づきにくい時間帯に、不定期で流れることが多い。同じ月に二度も再放送されたこの回は、制作者の注力や反響の大きさもあっただろうが、きわめて恵まれているといっていい。
次に情報が既報との意見だが、『ETV特集』に限らずNHKのドキュメンタリ番組は既存の情報をまとめた見解にとどまることも多い。全国地上波で流れる番組で周知することに意義は充分あるだろう。そもそも速報性を重視するニュースではないのだし、むしろNHKならではな時間をかけた番組作りがされていると、好意的に評価したい。
また、90分という長さは番組枠の通例であって、まれに60分の場合があるくらい。より短い『NHKスペシャル』と比べて冗長に感じることが多いのも正直な感想ではある。放射能汚染地図以外の観点があったことは、調査中に遭遇した出来事を紹介する目的だけでなく、枠に規定される尺が関係していたかもしれない。


最後に少し不謹慎な話をするが、世界唯一の機器を用いて幹線道路を走りながら計測する光景には、まるで終末映画を見ているような気分にもなった。

岡野博士が開発した計測機を自動車に搭載して、福島県内の道路2000キロを走破した。この計測器はビデオで撮った現場映像とともにGPS情報、放射線量、放射性核種のスペクトルを、同時記録してゆくことができる世界唯一の機器であり、チェルノブイリ事故での計測により国際的な評価を得ている。

先述したように番組自体がロードムービーの様相をていしており、無人の街を計測する特殊な自動車という絵面が虚構のように感じられてしかたなかった。しかし、だからこそ物語の力を信じる者として、いずれこの光景を引用しつつ克服できるような作品が創られることを願っている。

*1:番組中でも同時期に行政機関が行っている各地のサンプリング機材を映している。

*2:http://www.nhk.or.jp/etv21c/file/2011/0828.html