法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

アストロボーイは電気柩の夢を見るか?

第2フェーズにあるサイバディは電気柩による遠隔操作しかできず、またその活動は「ゼロ時間」と呼ばれる特殊な異空間の内部に限られているのだ。
THE WORLD OF STAR DRIVER|STAR DRIVER 輝きのタクト


[twitter:@kmori58]氏から批判的に言及されていたようだが、主張が混乱しているので正面から答えにくい。そもそも細切れにつぶやいていくtwitterという媒体自体が、主張の一貫性を失わせやすいのかもしれない。

最初に細かい部分となるが、「我々弱者は」とは主語が大きすぎる。声を上げられない弱者の立場を盾にして利用する、熱中症患者や透析患者のサバルタン化に繋がりかねない。弱者という立ち位置を明らかにしておく意図ととらえて、かつ文字数制限を考慮しても、「弱者の私は」で充分だろう。
次のツイートで「世の中そんなムシのいい方向には動かない」という主張は、いわゆる「太宰メソッド」に近いものがある。自説の責任を全て「世の中」に負わせてはならない。選挙権も持たずデモのような社会運動にたずさわる余裕を持たないというなら別だが、そうでなければ「世の中」を構成している責任をkmori58氏もいくらか負っている。ただ、先のツイートで「ならないだろうと思われる」と推測にすぎないことは表明しているので、断言口調であることは問題にしない。
そして3つ目のツイートで、責任を持つ主体の決定的な転倒が見られる。「原発止めて我慢しよう(透析は3時間で!)」というような状況を作っている主体は「ムシのいい方向には動かない」「世の中」であり、それを追認しているのはkmori58氏自身だ。その責任を「左翼」に取らせようとするとは、まさに切り捨てようとした他者を人質として利用する態度に他ならない。
最後のツイートについては、医療に全くといっていいほど公的な補助がないような国、たとえばオバマ政権以前の米国であれば成り立った意見かもしれない。しかし人工透析でも医療費助成制度の助けがないわけではない。現実と残酷をとりちがえる諦観をkmori58氏が信じていることは自由だとしても、それもまた一つの宗教でしかない。


結局のところ、「足りないなら柏崎刈羽の2-4号機も動かしてほしい」と述べているように、kmori58氏が主張する「世の中」にしても現実のそれと同じではない。どの程度まで実際に足りないのかすら、明確ではない。原子力発電の運用が厳しい現実を「想定外」にし続けていた*1ことと重なる。
日経新聞が報じていたように、実際には市場原理こそが脱原発をうながすという可能性すら指摘され始めている。
東電の悪夢、問われる原発の合理性 吹き飛んだ2兆7000億円弱 :日本経済新聞

 国有化の是非はともかく、事実上は、東電はもはや政府の後ろ盾なくしては信用を維持できないところに追い込まれている。格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は4月1日に東電の長期格付けをAプラスからBBBプラスへと3段階引き下げた。社債が「ジャンク債」扱いを受けないぎりぎりのレベルだが、実はS&Pは同じ発表の中で東電のスタンドアローン評価、つまり政府支援などを考慮しない「単独の信用力評価」を従来のaプラスからbbプラスという投機的水準にまで引き下げてもいる。

 これほどやっかいな原発を電力会社の経営者は「国策事業」として背負い続けていくのか。株主は大事故を起こせば株価が暴落するリスクに耐えられるのか。そして危険を覚悟で事故処理に立ち向かう従業員を今後も確保できるのか――。

現実の原発は、高い評価の巨大独占企業をかたむかせて「余裕」を失わせるほどのリスクをかかえていた。電力の供給と受容が異なる地域でなされるという原発の現状が、東日本大震災後の計画停電を生んだ一因であることも否定できないだろう。もし原発を国有化させてようやく維持できるならば「弱者が生きるには全体を富ますしかない」という発想とは正反対だ。


注意しておくが、どのような条件でも原発を稼動してはならないとは私は主張していない。健康で文化的な生活の確保に電力を必要とするという想定が、原発を稼動させる社会選択の根拠となりうることを否定しない。電力の供給増を最優先するべきという主張も、必ずしも間違いとはいわない。
しかし、やはり原発維持論者もまた、しばしば眼前にせまった現実から目を背け、夢に耽溺している場合があることは確かなようだ。そして「生死にかかわるような者へ優先的に供給される社会を構築するべき」*2という根底を忘れた社会を許すならば、どうやら過去もそうであったように、おそらく未来もそうであろう。


ちなみに、はてなブックマークで以前に注目を集めていた*3ツイートを合わせて読むと興味深い。

こういう主張をしていたわけだから、Togetterで争点の一つとなっていた反原発教のふるまい自体には積極的に賛成しなければおかしい、と念のため注意しておく。今回のkmori58氏と矛盾があるとはいわず、ただ確認したいだけだが。

*1:過去記事にメモしていたが、中越沖地震でも似たようなことがあった。http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20070719/1184904209

*2:念のため、この発想のみで思考するべきとは一度も主張しない。異なる思想でも社会が動いていることを想定に組み込むことは、何ら間違いではない。

*3:http://b.hatena.ne.jp/entry/twitter.com/kmori58/status/19262057965