法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

菊池誠氏のバリアフリー論への補足と不安

発端は、大阪大学教授の菊池誠氏による、バリアフリーを達成する条件のツイート。

このように個人の良心や努力に期待すべきでないからといって、必要な条件を「技術と金」のみであるかのように表現したことで、いくつもの異論がブックマークでコメントされていた。
はてなブックマーク - kikumaco(10/29ベアーズ) on Twitter: "バリアフリーは結局のところ技術と金で成し遂げるものなので、国が豊かであることは重要だと思う。「親切と善意で成し遂げる」みたいな精神論ではどうしようもないよ"
たしかに「技術と金」はあくまで手段であり、達成するためには目標が前提として必要なことは間違いない。
さらにいえば、たとえ手段が不足していても、目前の不公正を見逃していい理由にはならない。マイノリティに座席を確保する余裕がないという理由でローザ・パークスを追いだすことが許されない時代に私たちは生きている。
マンデラ、キング牧師、ローザ・パークス――人種差別と闘った英雄たち(画像) | ハフポスト
そもそも、現代日本においてバリアフリーの必要性が指摘される時、「技術や金」という条件で不可能な事例がどれほどあるだろうか。リソースの不足が原因と釈明される場合でも、そのふりわけの不公正や不適切が批判されうる事例が多いはずだ。


とはいえ短いツイートということもあり、法整備など制度設計なども重要な条件であると補足すれば許容していいのではないか、くらいに私は思った。
しばらくして菊池氏も、「技術と金」の重要度が高い「物理的な問題を解決しなくてはならないもの」だけでなく、「制度でなんとかなるもの」も存在するという認識をツイートで示している。

しかし、ブックマークで擁護するコメントを見ていると、発端のツイートがあたえる影響に不安になったのも事実ではある。
たとえばid:ublftbo氏のコメントは、単独で正しい主張のように評価している*1

この主張単独で見ると、全く正しいとしか思えないのですが、何か参照しておいたほうが良いコンテクストがあるとか?(たとえば、後段の主張が藁人形論法的になっている、など)

id:locust0138氏にいたっては、“誤解”をまねきかねない菊池氏のツイートからふみこんで、「大抵の社会問題は金と技術でのみ解決できる」と断言していた。

「みんな貧乏が悪いんや」は真理。大抵の社会問題は金と技術でのみ解決できる。環境問題然り。本邦が戦争に負けたのは金と技術がなかったから。精神論に走ったから。菊池氏を批判する方々は大日本帝国を支持するの?

このlocust0138氏のコメントは、勝ち目のない戦争をおこなって負けたことのみを問題視しており、植民地や侵略そのものが問題だという観点もない。「金と技術」という手段が足りるだけでは、それを公正にあつかうことができないことを、はからずも証明している。

*1:なお、弱者を切りすてるかたちの経済成長への異論をとなえる「反成長」に対して、菊池氏が前段を無視して後段を擁護するというふるまいが問題視されてきたという文脈はあるようだ。過去には経済成長の必要性をとなえようとして、経済成長が弱者を救う充分条件のように混同させ、まさに命を経済でにぎることを追認するツイートをしていた。kikumaco(1/26さるフェス) on Twitter: "僕も経済政策は人命にかかわると考えているので、「経済か命か」という二項対立の問題設定をする人はどうかしていると思うのだ。経済政策に失敗すればたくさんの人命が失われる" 今回についても、菊池氏の補足的なツイートを読むと「経済成長不要論」への批判を展開している。kikumaco(1/26さるフェス) on Twitter: "しかしまあ、バリアフリー化だって金と技術ですよって話に戻るわけよな。社会が豊かであることはだいじよ。経済成長しない社会は様々な意味で弱者に冷淡なのよ。「経済成長不要論」の人たちは社会的・経済的弱者に冷淡だよね"