法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

誰が靖国に英霊を公表したのか

先日、靖国合祀取消訴訟那覇地裁が遺族の訴えを退けた。
http://www.asahi.com/national/update/1026/SEB201010260010.html

 沖縄戦などで死亡した肉親が無断で靖国神社に合祀(ごうし)されたとして、沖縄県内の遺族が神社と国に合祀取りやめと慰謝料を求めた訴訟で、那覇地裁は26日、遺族の請求を退ける判決を言い渡した。平田直人裁判長は「遺族の信教の自由を妨害する具体的な行為があったとは認められない」とした。遺族は控訴する方針。

 これまでに軍人・軍属の合祀について争う訴訟はあった。今回は民間人を含めて遺族が望まない合祀が妥当かどうかを問う初の訴訟だったが、同種訴訟と同じく合祀を容認する判断となった。

 原告は70代の男性5人で、肉親計10人の合祀について提訴した。沖縄戦ひめゆり学徒隊に動員された17歳の女子生徒や、国に「戦闘参加者」とみなされた2歳の幼児を含む一般住民6人が含まれる。原告は、軍国主義の象徴だった靖国神社に肉親が無断で合祀され「追悼の自由を侵された」と主張。神社が管理する「祭神簿(さいじんぼ)」などから肉親の氏名を消すよう求めた。

 国は多くの一般住民が戦闘に巻き込まれた沖縄戦の経緯をふまえ、「戦闘参加者」とみなした一般住民の遺族に給付金などを払っている。原告は、「戦闘参加者」の情報を国が神社に伝えて合祀に協力したと主張し、国も訴えた。

 判決では、山口県護国神社への合祀をめぐり遺族が敗訴した1988年の自衛官合祀拒否訴訟の最高裁判決をふまえ、「他者の宗教的行為に不快な感情を持つとしても、法的救済を求めることができるとすれば相手の信教の自由を妨げる」と指摘。靖国神社の「信教の自由」に基づく合祀を尊重する立場を示した。

 国の関与については「国の情報提供は合祀に一定の役割を果たした」と認めつつ、「戦没者についての照会への回答は時代の要請に応じた行為で、宗教的な色彩はない」と判断。「国が合祀を推進したとは言えない」とした。

遺族の意思や本人の意思と明らかに反しているのに宗教行為へ用いることが信教の自由という主張は、やはり理解しがたいものを感じる。死者の霊とやらを得手勝手に用いる宗教は数多あるとはいえ、それは一定程度まで遺族が同意していたり*1、歴史的な過去の人物を用いたりするものだろう。
それはさておいても、靖国神社を擁護する主張において遺族の心情を根拠とするものがあるが、実態として靖国神社は遺族の願いを聞き入れることはない。単に利用できる場合に利用しているだけだ。


さて、上記の報道に対してgryphon氏が『エスパー魔美』の有名な描写になぞらえているのだが、どうも的を外しているような気がしてならない。
(11.1追記)靖国合祀取り消し訴訟、那覇地裁判決で過去エントリのプレイバック。 - INVISIBLE D. ーQUIET & COLORFUL PLACE-*2

ムハンマド風刺画」「コーラン焼却」騒動(の解決策)に通じるとした「エスパー魔美メソッド」を

http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20101011#p4

から展開させて

「あいつはまつった!ぼくはおこった!それでこの一件はおしまい!!」

でいいんジャマイカ

もちろん

「あいつはのろった!ぼくはおこった!それでこの一件はおしまい!!」

も可。

この描写の前提として、父を批判された魔美が怒って抗議し、「天ばつ」をくだしたという背景がある。父が語る言葉は、魔美の思い込みを意図せず批判するという意味も物語上ある。比べて考えると、靖国神社の場合は英霊が遺族に「おしまい!!」と宣言できるわけがない。それともgryphon氏は英霊の代弁者として遺族に「おしまい!!」と宣言しているというのだろうか。
何より、魔美の父は「自由に批評する権利」を無制限に認めているわけではない。台詞をよく見ればわかるとおり、「公表された作品については」という前提がある。比べて考えると、靖国神社の場合は遺族や英霊本人が能動的に公表したとはいえない。むしろ国の情報提供も裁判で訴えられ、判決でも「国の情報提供は合祀に一定の役割を果たした」と認められている。そもそも、ひめゆり学徒隊や一般住民が「英霊」という立場にされたこと自体、国が深く関わっている。つまり靖国神社裁判を『エスパー魔美』に当てはめるなら、無理やり作品を作らされて勝手に公表されて批評されたということになる。gryphon 氏は見せかけの自由にとらわれ、その前提として存在している強制を無視してしまっている。


魔美の父は「それがいやなら、だれにもみせないことだ」と正しく指摘している。遺族にも、情報を提供しない選択をするような「自由」が与えられてしかるべきだったはずだ。

*1:本人が納得していても、先祖を持ち出して高額の布施を要求したりする宗教は社会的に問題視され、詐欺として扱われたりすると思うが。

*2:太字強調は引用ママ。