法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『アンダーワールド ブラッド・ウォーズ』

 パートナーのマイケルだけでなく娘のイヴとも離れることになったセリーンは、吸血鬼の一部勢力に乞われて人狼族との決戦に助力することになる。セリーンと若き吸血鬼デヴィッドは、北方で平和裏にくらしていた特殊な吸血鬼の一団のもとにかくまわれるが……


 現時点でシリーズ最新作の、5作目にあたる2017年の米国映画。アンナ・フォースターにとってはこれが映画初監督作品になる。興収はシリーズ最低で、批評的な評価も低いという。

 しかしレン・ワイズマンがたちあげたシリーズの個性は良くも悪くも薄れたかわり、B級アクション映画としては全体的に及第点。低予算作品ではあってもセットもVFXも衣装も問題ない。
 監督は女性だが、特撮や撮影の経験があるらしい。検索するとTVドラマではベテランと呼べるほど監督経験をつんでいるし、同じドイツ出身のローランド・エメリッヒ監督作品の多くで撮影をおこなっている。アクションチームスタッフに左右されるとはいえ、等身大アクションはエメリッヒ作品よりもうまいくらいだ。
 約一時間半と短い尺で裏切りが連続するため、華やかな衣装の夜会などがせわしないし、人類陣営についての説明も足りないが、ふたつの種族が争った歴史の顛末として完結作らしい風格はあった。


 子役は心身や周囲の変化が大きいためか、娘は前作*1の結末に反して姿を消しているパターン。主人公のパートナーも狼男族の思惑で死体まで残されなかったまま完全に映画から退場した。こういう映画はやはりクリフハンガーせずにいったん結末までつくりきったほうが良いのではないだろうか。ただし前作で娘を守りきった結末が無意味とされたわけではなく、主人公が事実上の囮となって敵をひきつけ、娘を守っているという構図で不在のまま実在している印象は出している。
 一方で二種族を追いはじめたはずの人類の存在感はなぜか消えて、かわりに北方で平和に隠遁している吸血鬼の一団が登場。長の若き娘レナを演劇学校を一週間ほど前に出たばかりの若手が演じて、ちゃんと雰囲気が出ている。陣営自体も敵味方がたがいに策謀をめぐらし裏切りあうなかで、確固とした信念をもちつつ必要とあれば戦いもする平和主義者として存在感がある。ゴシックの黒で染めてきたシリーズで、初めて城を基調とした一族なビジュアルもポイント。支援された主人公はいつもの黒いスーツの上に白いコートをはおってクライマックスを戦う。
 前作で登場した若い男が主人公の戦いを支援しつつ、まったく恋愛を感じさせないところも良い。それでいて道化役や便利役ではなく、父との関係で主人公とは異なるドラマを演じた。
 ただ狼男族の首領が、主人公のパートナーの血をうばって強化した強敵でしかないことは残念。演じている俳優がメイキングで指摘しているように、反乱者としての狼男たちにとっては必要な指導者でもあったはず。吸血鬼から裏切らせた女性に対して、利用したなりの愛情を見せるくらいの描写はあっても良かった。