敗戦の気配がただよう1944年7月20日のドイツ。隻眼のドイツ軍将校シュタウフェンベルクは、同志とともにヒトラー暗殺計画を決行する。会議室を爆破して、成功したかに見えた暗殺だったが……
史実を約2時間にまとめた2008年の米独合作映画。トム・クルーズが主人公を演じ*1、ユダヤ系ドイツ移民の流れをくむブライアン・シンガーが監督した*2。
- 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
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戦場もふくめた当時のドイツの風景や、暗殺計画の経過をていねいに映像化したことはわかる。ドキュメンタリー的な劇映画として、期待される水準を充分に超えてはいる。
しかし、ヒトラー暗殺が失敗したと観客が知っていることを前提にした物語にはできていなかった。
どれほど歴史に無知であろうと、ヒトラーの最期がドイツ軍将校による暗殺でないことくらい観客は知っているだろう。
いや、もちろん知らない人も忘れた人もいるだろうが、それくらい歴史に興味がない人がヒトラー暗殺という題材に興味を示すとも考えづらい。
成功するか失敗するかというサスペンスは成立しづらい。どうしても主人公がどのように失敗していくかを描いたメロドラマになる。
そこで、どれほど主人公が強い信念をもっていたか、どれほど誠実に状況に向きあっていたか、そして計画そのものは失敗しても歴史に何かしらの爪痕を残せたか……といった物語を展開すべきところだろう。
しかし映画が描くのは、ほとんど暗殺計画の立案から失敗の範囲まで。ヒトラー暗殺の動機を主人公たちがいだいていく前提も、失敗した暗殺が残した影響も、あまり描かない。
しかも主人公は暗殺の結果を確認しようとする周囲をふりきって、暗殺が成功したという前提で体制の掌握計画を進めてしまう。映画の構図では、主人公は仲間を巻きこんで計画の失敗を拡大させてしまった道化のようにすら見える。失敗の可能性を認識しながら、賭けに出ざるをえなかった主人公……そのような葛藤をほりさげる物語にはできなかっただろうか。
*1:サイエントロジー信者が英雄シュタウフェンベルクを演じることには反発もあったという。 大ピンチ! トム・クルーズ、ドイツ国防省からサイエントロジーはダメ! - シネマトゥデイ
*2:数年前から、多くの未成年への性的暴行疑惑が報じられている。