法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ゾンビ・サファリパーク』

ゾンビ蔓延が収束して7年後、ゾンビは孤島に隔離され、狩りの標的としてレジャーの対象になっていた。
メラニーは父の死のトラウマを脱するため、ゾンビ狩り療法を体験しに孤島へと向かったが……


2015年の英西合作映画。昔からゾンビ映画ばかり作ってきたスティーブ・バーカー監督による、B級なりによくできた作品。

いわば『ジュラシック・ワールド』の低予算ゾンビ版といったところか。
ゾンビの襲撃がフレーム外から突然というパターンが多いのは気にかかったが、全体としてアクションホラーとして水準以上ではある。
低予算にしては俳優の演技にも問題なく、閉鎖環境ということもあってスケール感に不足を感じさせず、行動目的が明確なので登場人物の行動がぶれず、予算は特殊施設やクライマックスに必要なだけそそぎこんで、娯楽として全体のバランスがとれていた。
後述のワンアイデアでホラーアクションとして尻上がりにサスペンス性を増していくところもいいし、ゾンビ狩りを楽しもうとするキャラクターばかりだからこそゾンビに襲われることに納得感があって娯楽性が壊れない。


しかも意外とゾンビ映画ならではの時代性と社会性も感じられた。
まず、この作品のゾンビは難民のアナロジーといっていい。序盤でメラニーが目撃するように、ゾンビ蔓延時代に生まれた難民も隔離されていて、その情景がつくりだす漠然とした不安感はゾンビに通じる。
知能の低いゾンビ殺しを楽しむレジャーも、帝国主義時代の植民地侵略のメタファーが感じられる。もちろんゾンビは暴走を始めていくわけだが、それもまた反乱のアナロジーといっていいだろう。
そしてそれらは比喩にとどまらず、ゾンビ狩りがレジャーとして成立した背景にむすびついていて、主人公のドラマにも密接にかかわっていった。


また、ゾンビ映画の発展史を1時間半かけて再演したメタフィクションとしても楽しめた。
孤島のゾンビは腐敗が進んでいて動きは遅いが、殺されたレジャー客はゾンビ化したばかりなので動きが速い。それがネズミ算的に数を増やしていって、アクション映画としても密度を増していく。古典的な遅いゾンビ像と現代的な速いゾンビ像を1作品に同居させるアイデアとして説得力がある。
さらに細部を見ても、最初は人間に使役される死者だった『恐怖城』で、次は静かにゆっくり襲ってくる『ゾンビ』*1、走って追いかけてくる『28日後…』*2から、特殊な施設で襲ってくる『バイオハザード*3をへて、集団で走って追いかける『新感染 ファイナル・エクスプレス』*4にいたる。

*1:『ゾンビ(ディレクターズ・カット版)』 - 法華狼の日記

*2:『28日後…』 - 法華狼の日記

*3:『バイオハザードV リトリビューション』 - 法華狼の日記

*4:主人公を追いかけるゾンビを俯瞰で映したカットなど、『ゾンビ・サファリパーク』が先取りしているといっていいほど似ている。『新感染 ファイナル・エクスプレス』 - 法華狼の日記