太平洋戦争の末期、米軍の巡洋艦インディアナポリスは極秘兵器を輸送していた。一方、日本軍の潜水艦伊58は人間魚雷回天をそなえていた。そして2隻は邂逅する……
ニコラス・ケイジが主演する、2016年の米国映画。主にTV映画系で俳優として活躍するマリオ・ヴァン・ピーブルズが監督した。
パシフィック・ウォー ブルーレイ&DVDセット(初回仕様/2枚組/特製ブックレット付) [Blu-ray]
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原爆を極秘裏に運ぶため、輸送後まで単独航行していて撃沈させられたインディアナポリスの史実を、時系列にそって史実から逸脱せずに映像化。
必然的に民間人を巻きこむ原爆を輸送したインディアナポリスと、兵士に死をしいる回天を運用した伊58を対比させつつ、沈没後の長い漂流と戦後の苦難をとおして戦争参加のむくわれなさを描いていく。
まず、全体をとおして原爆の非人道性が前提となっている語り口が興味深い。一方、インディアナポリス撃沈時には回天を出撃させなかったことで、日本軍艦長が敬意をはらうべき存在のように描かれる。それによって、インディアナポリス艦長に撃沈の全責任を負わせようとする米軍の理不尽さが強調され、ひいては戦争そのものの理不尽さが実感されていく。
そうして描かれる出来事はドラマチックだが、誇張や強弱はおさえているので、淡々とした印象がある。たとえば時系列をいじって、原爆投下をつたえる報道の片隅で巡洋艦撃沈の記事を見せ、時間をさかのぼって戦時中の出来事を見せるといった工夫があれば、もっとインディアナポリスの特殊性が観客に伝わったろう。
かわりに映画の見せ場となるのは、漂流時に多くの鮫が襲ってくる局面*1。真面目なトーンの鮫映画はかなり貴重だし、数十人がイカダにすがりついているところを鮫が回遊するシークエンスの規模感も他にない。
時系列にそった語り口や鮫映画としての見どころから、アンジェリーナ・ジョリー監督の『不屈の男 アンブロークン』*2も連想した。
そこで比べると絵作りの弱さがつらい。特に前半、3DCGで表現される戦闘はドキュメンタリー内の再現ドラマかと思うほどクオリティが低くて、気まずさすらおぼえた。インディアナポリスの新設セットを作る予算もなかったらしく、同時代の軍艦とはいえサイズが異なる戦艦アリゾナで撮影している。
ただ撃沈からはVFXにも力が入りだして、爆炎CGの出来もいいし、海に落下する乗員を小規模セットと合成を駆使して表現。そこから実際の海に俳優がただよって撮影した漂流シーンや、アニマトロニクスの鮫は充分なリアリティがある。終盤の飛行艇も当時のものを使って、その救出シーンは見ごたえがあった*3。