法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『里見八犬伝』

里見家にうらみを抱いた怨霊と、その息子がひきいる蟇田家の軍勢に、里見家が滅ぼされた。脱出できたのは静姫ひとり。
そんな静姫が男装しているところに、戦で手柄をあげられなかった親兵衛が出会う。静姫が女と気づいた親兵衛は襲いかかった。
やがて逃げつづける静姫を中心として八犬士が集まっていくが、怨霊も自身の若さをたもつため静姫の皮膚を欲していた……


1983年の深作欣二監督作品。原典の『南総里見八犬伝』そのものではなく、鎌田敏夫の翻案小説『新・里見八犬伝』が原作となっている。
里見八犬伝 : 角川映画

里見八犬伝

里見八犬伝

英語のロック音楽を主題歌にしたりと細部で当時の若者を意識しつつ、どこまでもビジュアルは時代劇的で、敵のデザインも歌舞伎の延長上。それゆえ現在に見ても映像がさほど古びていない。
殺陣はダンスのように華麗でスピーディ、さまざまなスタジオセットは充分なスケール感があり*1矢島信男特撮監督による短いながらクオリティの高いミニチュア崩壊も楽しめる。ひとつの和風ファンタジー映画として、まずまずの佳作。


物語はほとんどオリジナルストーリーだが、2時間以上の長尺でも、長大な原典をそのまま映像化することは困難なはずだ。そこで終盤に登場するキャラクターを使って、新たなストーリーをシンプルにまとめるというのもひとつの判断だろう。
メインで展開されるのは、静姫による里見家の再興と、親兵衛の葛藤。原典からも複数のエピソードを引用しているが、怪猫に騙されるエピソードを舟虫に置きかえたりして、登場人物を整理している。霊玉や村雨の争奪戦も出てこず、敵味方の争奪対象は静姫ひとりに整理されている*2


そもそも原典で里見家を助ける坊主ふたりを最初から犬士ふたりに置きかえていて、何もないところから犬士が集まっていくストーリーではなくなっている。そのように立場を決めてくる運命に対して、最後に犬士となる親兵衛が自分で立場を選ぼうとするストーリーだ。
里見家だけでなく蟇田家の宿命をも負っている親兵衛の立場はドラマチックだし、静姫を助けるために敵の居城で次々に犬士が犠牲になっていく展開もエンターテイメントとしてわかりやすい。
そうしたストーリーの構造だけならば、宇宙SFに翻案した深作欣二作品『宇宙からのメッセージ*3のほうが原典に近いといってもいい。逆に、主人公をひとりに集約して、途中で敵との因縁も明かされる『里見八犬伝』は、より『スターウォーズ』の構造に近いともいえる。

*1:岩壁にぶつかる場面でボヨヨンとゆれる気まずいカットがあったのは残念だが。

*2:ただ、浜路をめぐるエピソードだけは原典から引いているが、本心を吐露する浜路が無駄に危険をおかしていて、関連する犬士同士の衝突にも無理をきたしていた。この浜路も静姫とひとつのキャラクターに整理するべきだったと思う。

*3:『宇宙からのメッセージ』 - 法華狼の日記