法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『相棒season15』第14話 声なき者〜突入

鉄工所に立てこもる犯人がつれてくるよう要求していた女性は、すでに死亡していた。杉下は、くわしい情報をもってきた神戸と、ひさしぶりに語りあう。
そして神戸のもたらした人間関係の情報と、米沢が知らせたクラウドソーシングの内実から、誘拐と思われた事件の構図が反転していく……


映画宣伝SP回として、第13話*1から連続した後編。スタッフは前編にひきつづき太田愛脚本と橋本一監督。
開始早々に神戸の情報で被害者と加害者の関係が明かされる。子供へのDVまでは示唆する描写が前編にあったが、そこから予想以上に規模が大きく、きわめて現代的かつ切実な社会問題が描かれていく。


まず神戸により、DVシェルターで母子が、保守反動な思想団体で父が、それぞれ人間関係を構築していたことが明かされる。
少女のつれさりを防ごうとした少年が、反撃が強すぎて相手を殺したと思いこみ、せめてDVが隠蔽されないようにたちまわろうとして、最終的に鉄工所にたどりついてしまったというのが立てこもりの真相だった。
前編でアパートから女性が逃げだす場面の意味がよくわからなかったが、悪事などの露見をおそれてではなく、夫から逃げるためだったわけだ。さらに、DVに苦しんでいる家族が逃げるための社会制度について、具体的な説明がされていく。ドラマの現実感を演出する描写であり、現実にドラマのような状況があると示す描写でもある。
一方、思想団体の時代錯誤ぶりは親学*2などを思い起こさせ、劇中のパンフレットに書かれた文章もどこかで見たような内容だ。もちろん警察でもはみだしものな主人公周辺は辛辣に批判するが、警察上層部などの社会的地位の高い男性が同調していると描写され、嫌な現実感がある。


また、クラウドソーシングで働いていたはずの人物が、実際には記録が残されていないという謎から、ボランティアのカテゴリに隠された業務を、秘密裏に受けていたことが推理される。
それはDV被害から逃げだした母子を発見するというもの。印象としては匿名掲示板などでおこなわれている身元特定に近い。WEBで会員となって真意を隠した普通の隣人だからこそ被害者は捜索されていることに気づけない……という発想の凶悪さに、男性視聴者としてもドラマを見ながらおののいた。
DV被害者の捜索を依頼するWEBサイトの文章もまた、どこかで見たような内容だ。DV被害を訴える母親は実際は遊び歩いていると非難する文言は、WEBでも商業誌でも本当にありふれている。


主人公がとれる手段はすべてとり、新たな死者は出さない解決へ導きつつも、後味は苦い。
保守反動な思想団体は、露見したDV加害者ひとりを切りすてて生き残る。関係者の情報でうまく捜査を指示できた警察上層部の人間にいたっては、逆に出世してしまう。
しかも少女がDVでパニック障害を起こしていることが、公判を維持できないという理由につかわれ、その父親の追求は不可能になってしまう。
現代社会で進行中の問題だけに、ドラマで安易な解決を見せられても冷めるだけかもしれないが、それにしてもやるせない。