法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

渡辺とおる『上井草アニメーターズ』と、峠比呂『これだからアニメってやつは!』の、アニメ業界を題材にした漫画2本

それぞれ、自負心を持ちつつも動画から出発することになった少年を描く作品と、集団作業にあたってスケジュール管理や人員配置をおこなう女性を描く作品。
アニメーターと並行しながら商業漫画も描いている作者と、ゲーム会社でグラフィックを手がけながら制作進行のような仕事もしていた作者の、それぞれの業界経験が反映されているのだろう。
ただし残念ながら、前者はキャラクターが出そろったところで全2巻の打ち切り。後者も、まだまだ連載中ながら第1巻が出たばかり。全7巻もつづいた石田敦子アニメがお仕事!』が、どれほどの偉業であったかわかる。


まず『上井草アニメーターズ』は現在進行形の業界ものとして興味深い。『アニメがお仕事!』は、創作者の情熱を前面に出しており、商業作品を作らなければならないことは枷や苦しみとして描かれていた。それに対して、仕事をつづける職人たちが妥協の範囲を見きわめながら、小さな会社で協力する群像劇となっている。

指示通りに線を引く動画から始まり、映像の基礎をつくる原画、全体を見る作画監督へとランクアップしていくアニメーター。その意識の違いや、実作業において使える使えないレベルの細かさ、会社ごとの仕事意識の違い、さらにアニメーター同士の神格化など、現役業界人らしい肌ざわり。もちろんデフォルメはされているだろうが、同じ作画作業でも立場ごとの仕事意識の違いを描けていて、群像劇のように楽しめる。
惜しいのは、やはり打ち切りになってしまったこと。さぼりながら動画に甘んじていた先輩が偽名で他会社の原画を請けおいつづけていたとか、主人公のライバルになりそうな相手が出てきたとか、他の会社へ視野を広げられる要素が出た瞬間に終わってしまう。
漫画絵はうまい。迷いのないシャープな線、しっかり描きこまれつつパースのしっかりした背景。明暗のはっきりした絵。一枚絵のイラストとして良いだけでなく、コマ割りの流れも存外に読みやすい。


次に、『これだからアニメってやつは!』は、働く女性ものとしても楽しめる。仕事を優先して恋に破れ、しかし仕事場でかつての恋愛対象に出会う結末など、いかにもといった展開。そもそも29歳という主人公の年齢が、アニメ関係の漫画としては極めて高い。

全体を管理する制作業、その末端である制作進行という立場のおかげで、より広い役職を描くことができているし、現場や他会社のキャラクターと出会う場面も自然。すでにベテランに近い主人公のため、さまざまなトラブルもなんとかやりすごし、読んでいてストレスが溜まらないところも独特。妥協する演出が単純な敵役でしかないところは疑問をおぼえたが、今後の展開によってふくらませる要素か。
エロティックな要素が求められるという話も、女性主人公なおかげであまり嫌らしくなっていない。物語の落としどころにもよるが、ノイタミナあたりでアニメ化してもおかしくない。
漫画絵は、かなり白さが目立つものの、キャラクターもちゃんと描きわけられていて悪くない。ただ作中アニメは、もう少し作中現実との違いを出せていればと残念に思う。画材を意識的に変えるとかの工夫をしても良かったのでは。
それから単行本巻末で大沼心監督へ作者がインタビューしており、それ単独でも興味深い内容だった。