法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』ドラえもんに落書き/燃えよ!ドラミのスケート特訓/タイムマシンがなくなった!!

藤子・F・不二雄生誕80周年記念 タイムマシンがなくなって大ピンチ! ドラえもん冬の1時間スペシャル」と題したSP回。来年の映画予告映像の最新版や、オリンピックとパラリンピックの開催地が東京に決まったことを受けて巨大ドラ焼きを作る超短編もあった。


ドラえもんに落書き」は短めのアニメオリジナル。写真に落書きすると被写体が落書きされたことになって消せなくなる「らくがおペン」が登場。「らくがき銃」に似ている機能だが、消すために専用の消しゴムが必要なところが独特。
落書きを消せないままデートに出かけるドラえもんをフォローしようと、のび太が右往左往する展開が面白い。誤解で行き違ってしまっただけで、二人がたがいを思いやっているから、さほど後味は悪くない。


「燃えよ!ドラミのスケート特訓」もアニメオリジナル。摩擦をなくす秘密道具「スベールガス」で、スケートリンクに行かず街中で特訓する風景が楽しめる。しかし、坂を下りたり人ごみをぬったりするシチュエーションの面白さに比べて、作画が弱かったか。
フィギュア大会の宣伝をかねているのだろうから、たっぷりの予算とスケジュールを与えて、アニメーションとして楽しませてほしかったな。


「超巨大ドラ焼き作り」は、巨大ドラ焼きを藤子F作品のキャラクターがつくる風景が、冒頭と中盤にわけて描かれた。
水野宗徳が脚本、善総一郎監督がコンテ演出、丸山宏一が作画監督、三輪修と久保園誠が原画という、そうそうたるスタッフなのに、あまり映像に力が感じられない。F組キャラクターの登場カットは静止画だし、スポーツの作画にも力がさほど入っている様子ではない。
なんというか、まさか東京が開催地に選ばれるとは思っていなくて、あわてて作ったような雰囲気だった。力を入れた企画なら、実写で巨大ドラ焼きを作りそうなものだし。ただ、オリンピックだけじゃなく、パラリンピックにも言及したのは地味に良かったかな。


「タイムマシンがなくなった!!」は、伝説の怪物を出す秘密道具「モンスターボール」を乗せたままタイムマシンが行方不明になり、それを追ってドラえもんのび太弥生時代を冒険する中編。
2005年のTVアニメのリニューアルSPでも選ばれた一本。さらにF組キャラクターから原作者の写真へつなげ、原作者が自薦した一本であると紹介し、そこから本編がはじまるという力の入れよう。
水野宗徳脚本と高橋敦史コンテで、原作以上に緻密な弥生時代の冒険活劇を見せてくれた。たとえばヤマタノオロチが登場する前兆として、猿が逃げ出すという描写からして、地味にうまいアニメオリジナルの伏線になっている。箸の形状も現代とは違っているし、アニメオリジナルで出される食事も考古学的にリアル。
いかにもSP回らしく、ジャイアン達そっくりのキャラクターが登場したが、レギュラーキャラクターへ出番を与えるだけでは終わらない。八岐大蛇伝説らしさを原作よりも増す改変につながっていて、違和感なく物語にとけこんでいた。特に「スネオ≒スサノオ」という思いつきのようなネタから、ただ当時では珍しい金属器を持っていただけの小物という伝説の真相を描いたところは、アニメオリジナルなのに藤子F作品らしかった。漁をした時に自然への畏敬が欠けていたからヤマタノオロチが来たのだと悔やむジャイアンも、原作の教訓へ説得力をくわえている。
複数のキャラクターが個々の考えでヤマタノオロチと対峙していく展開も悪くない。残念ながらクライマックスの戦闘はギャグで何度も寸断されたが、原作通りのオチなので、あまり緊迫感を出してもバランスがとれないか。全体として見所の多い、佳作だったと思う。