法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『狩場最悪の航海記』山口雅也著

小人国だけが童話として楽しまれがちな『ガリヴァー旅行記』は、実際には大きく別けて四つの冒険が描かれた、長編風刺劇だ。
三つ目の冒険では、宮崎駿監督が着想をえた空飛ぶ島ラピュタが登場し、比較的に正確な日本の風俗が描かれる。その期間に語られざる冒険があり、それを描いた未発表原稿が発見され、研究者による注釈をつけて出版されたという体裁のパスティーシュが、この『狩場最悪の航海記』だ。
ガリヴァー旅行記』の風刺劇としての側面を好む一人としても、完成度が高く感じた。外国人の目で日本をまなざす形式は、同作者が外国小説を翻訳したという体裁の『日本殺人事件』も思い出させる。


同作者の代表作『生ける屍の殺人』よろしく、特殊設定を導入した本格ミステリの趣もあるが、基本的には冒険活劇。枚数に比して二つの殺人事件の真相はわかりやすく、あくまで遊び心で入れたと考えるべきか。どちらかといえば、ミステリ作家らしい伏線の濃密さ、意外性と説得性が両立した展開を楽しむべきだろう。
日本の風俗を描く序盤、波乱万丈の航海を描く中盤、竜の棲む島の探索行を描く終盤と、娯楽性の高い物語が、原作の強い風刺性を再現しつつ描かれていた。原作の科学不信や女性嫌悪のような、現代には通用しない主張は、うまく現代的な批判意識を導入している。水戸光圀への批判的な視座など、下手な歴史物より深く踏み込んでいた。
批判意識だけでなく、設定にも現代的な要素がさしはさまれている。しかし、それが時代性を損なっているかということはなく、そうした疑問点すら最終的に物語へ取り込み、パスティーシュとして完成していた。
細かい章ごとの注記でも遊びが多く、虚実がないまぜになった偽書として大いに楽しんだ。


あと、個人的な面白みとして、女海賊のイメージを『モーレツ宇宙海賊』のキャラクターデザインに当てはめながら読んでいた。キャプテンのラウラを主人公母の加藤梨理香、その部下アマンダを主人公の加藤茉莉香、アマンダと仲良くなる女忍者笑窪をチアキ・クリハラ、と。
そして、そう思いながら読んでいると、アマンダが笑窪を全裸にさせて二人きりで身体検査する場面が出てきて*1、なるほどと思った……何がなるほどだ。

*1:234頁。誤解を招きそうな説明だが、嘘はついていない。