法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

わからないという反応がわからない

kyoumoe氏=[twitter:@jizou]氏のツイートに対して、言及されたと思われるものについていくつか。

後で起きた出来事を、証拠に出来ると思うのは、時間移動能力者くらいだろう。また、相関関係を感じたからといって、因果関係があることには直結しない。
何より、その主張ですませようとするならば、当該ブックマークコメントが批判された時の反論と整合しない。

連続したツイートなので、「強調してるってことはその部分が気になってるってことだと思うんだけど」とは、最初に引用されている下記エントリに対してだと思う。
南京大虐殺の論争はしていない。分量を見ればわかるように本題は後半だ。 - 法華狼の日記
しかし私が太字強調しているのは、kyoumoe氏が書いた文章通りに引用しただけなのだが。
慰安婦の強制連行 - 今日も得る物なしZ
原文ママと注記しなかったとはいえ、本人から不思議がられるとは思わなかった。

なぜ二者択一なのだろう。せめて文章をきちんと読んで、少し考えられないものか。太字強調していた部分を再掲する。
「南京大虐殺に触れることは赤に群がられる原因で、利害関係者以外だけがソースになるんですね! 覚えたぞぉ! メモメモ!」 - 法華狼の日記

募集段階で軍以外が斡旋していただけで全ての連行が業者の行為と主張するような、強制連行の全体像を想像できていない詭弁など、少し考えれば相手にする必要もない。

従軍慰安婦を集める時には業者が行っていたこともあるし*1、軍が直接的に行っていたこともある。該当地域を日本軍が掌握していた程度によって、とりうる最も安易な手段が異なっていたからだ。日本本土や、長く占領されていた朝鮮半島からは、売春婦が集められた例も多い*2。台湾では、看護婦の仕事だと騙されて応募し、移送先で将校に強姦され軍慰安所へ入れられたという証言者がいる*3。そしてインドネシアのように占領期間が短くて業者もおらず、騙して集めることも困難だった地域で白馬事件が起きた。もちろん一人一人が受けた被害の内容も異なる。
このように募集の初期段階で異なる手段が用いられたことをもって問題は一部と見なし、日本軍の責任を軽視する向きがある。しかし、ある時期以降から、海上移送する時に軍艦が用いられたことははっきりしている。一個人の回顧録どころか、「南洋方面占領地ニ於ケル慰安所開設ニ関スル件」として、当時の外務大臣の指示が残っている。
3.渡航手続き関係資料が示すもの - 15年戦争資料 @wiki - アットウィキ*4

この昭和16年(1941年)12月8日、太平洋戦争がはじまると、日本軍は香港、シンガボール、フィリピン、ビルマインドネシアに攻め込んだ。南方に占領地が拡大していった。そこにも軍慰安所が設置された。この新しい局面での南方占領地の慰安所への女性の確保については、新しい方式がとられた。昭和17年1月10日台湾総督府外事部長が東郷茂徳外務大臣に問い合わせを行った。

「南洋方面占領地ニ於テ軍側ノ要求ニ依リ慰安所開設ノ為渡航セントスル者(従業者ヲ含ム)ノ取扱振リニ関シ何分ノ御指示相煩度シ」。

外務大臣は1月14日付けで回答した。

此ノ種渡航者ニ対シテハ{旅券ヲ発給スルコトハ面白カラザルニ付}軍ノ証明書ニ依リ{軍用船ニテ}渡航セシメラレ度シ

とある。このうち{  }の中に入れた部分は抹消された部分である。吉見氏はこの資料から外務省がこの種の渡航に関わらないことになり、管轄権が軍に帰属することになったとの結論を出しているが、外務省が関わらなくなるということの意味は、内務省と警察が関わらないということであり、警保局が支那渡航婦女について出していた条件が消えることを意味したのである。南方占領地への慰安婦の派遺はまったく軍にゆだねられ、それまでのコントロールは完全にはずされたことがわかる。

先日のエントリでも述べたように、最終的に行き着いた慰安所も多くは軍が管理していた。
あえてkyoumoe氏の疑問に答えるなら、初期段階で誰かに依頼して行われた場合もあるが、いずれ最終的には軍人が実際に手を下していた。この答えで満足だろうか。

もう一度、kyoumoe氏の文章を引用する。
情報源の話 - 今日も得る物なしZ

記事を削除するということは何が書いてあったか基本的に見られなくなるってことなんですよ。

私がkyoumoe氏の記事全体を確認できないまま消されてしまったため、「愚痴」であったかどうかなど確認できるはずがない。後に起きた出来事を主張の根拠にしたkyoumoe氏と違って、私に時間移動能力はない。
意見であれば情報にならないといいたげな主張も意味不明だ。主観的な価値判断であってさえ、kyoumoe氏の主観的評価という情報であろう。

*1:ただし業者といっても単純な民間人とは限らず、軍属であったとおぼしき場合もある。「また当該部隊の長の判断により、それらの請負業者を軍属にすることができたこともわかる。ただし、この改定野戦酒保規程では軍属にできる請負商人には定員の枠が設定されているので、実際にどれほどの業者が軍属になったのかはまた別問題である」http://www.bun.kyoto-u.ac.jp/~knagai/works/guniansyo.html

*2:ただし、当時の売春婦を自由な職業選択の結果とはいいがたいことは注意するべきだろう。さらに職業としての売春婦を自由な選択肢によるものだったと仮定してさえ、いかなる形態の仕事を強要しても問題がないということにはならない。

*3:吉見義明『従軍慰安婦』111〜112頁。

*4:注記番号、および元資料集の該当頁を示す部分を引用時に削除した。陸軍省が独占的に渡航を管理する以前は、外務省もかかわっていた。