法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

おそらく本当に新書一冊も読まない人

何を批判したいのか判然としないレポートマンガを読んだ。
◆ ケシクズ ◆:■ スネークレポマンin三鷹
これのどこが「確かに、この人の批判に正しいことはたくさんある」*1のだろうか。
つまるところ、マイクでヘイトスピーチをアジって妨害する集団に属していても、わざわざ誇示さえしなければ、誰でも自由に入ることができたというだけの話。門戸は広く開かれていたわけだ。どちらかといえば、見学者に対しても「売春楽しかったーー?」*2と遠くから声をかけるような集団こそ、入場を阻害しているのではないだろうか。
そもそも、同じブログでプリンスホテルにくだされた判決を拒絶したばかりなのだから*3、きちんと最初から妨害者を排除している主催者を作者は肯定するべきだろう。


しかしマンガとしては、冒頭からナノゼリー先生を好意的に描いていることに苦笑しつつも、対立しているイベント主催者や参加者もさほど醜悪に描いていないのが興味深い。
見学後に公安警察らしき者から「今日はかーなーり頑張ったんじゃない?」と名刺を渡されたサスペンスや*4、自己認識と外部認識のズレというオーソドックスな笑いもある。
特に、「ブルーリボン」「お手製(マークだけ)トルキスタンTシャツ」「手提げ袋に日の丸」*5という格好をしていることに途中で気づいて「ヤッちまったな……」と独白する自意識過剰さが、作者が意図していないと思われるだけに最も笑えた。何と戦っているつもりなのだろうか。
何にしても、この種のマンガとしては比較的に楽しめた*6


もちろん作者の慰安婦に対する認識は疑問点が多々ある。
レポートマンガでは具体的な批判がほとんどないので、そもそも反論にも値しないのだが、5頁から6頁の流れが凄かったので、簡単に指摘しておこう。
パネルでは慰安所が作られた理由の一つとして「強姦の多発」が示され、「37年の南京の前後 日本兵による強姦が多発し…」と説明されていた。
するとブログ主は「なぁにィイイイーーッ」と驚く。「揚子江ぞいに上海から来てる途中に強姦しまくったって?! ねーよ 殺されるだろ支那兵に!! そーとー大変な戦いだったって聞いてっぞ」「しかも指揮官は松井石根大将っ 後世に恥をさらしちゃならぬと規律に厳しいこの方が強姦する兵を許しとくわきゃねー」「結局 南京/慰安婦セットで日本を悪者にしたいだけかと言う感想」と語る。初耳でなければ、こういう反応にはならないだろう。
ところが、本来は全く驚くようなことではない。慰安所の増加原因を南京攻略戦と指摘する説は、10年以上も前の岩波新書従軍慰安婦』ですら書かれている*7

 軍慰安所の大量設置は、南京事件南京大虐殺)をひきおこすことになる南京攻略戦と深い関係があった。

支那人は面子を重んじ、外見上婦人を大切にするが、強姦は総ての悪徳暴虐行為の中、其最悪なるものとして非常に重大なる社会問題として居る。〔匪賊や盗賊も〕虚言、瞞着、掠奪、強盗等は平気でやるが、強姦だけは滅多にやらぬ。(関東軍参謀部宣伝参考「漢民族の特質」)

 このように、日本軍人が犯す強姦事件は何より治安維持のうえで重大な問題だと考えられていた。

むしろ、外面の規律を維持するため間に合わせの手段として慰安所が設置されたわけだ。
松井大将が規律を重んじていたという認識も薄い。南京占領後に日本軍の暴虐を叱責したという話であれば、南京攻略時に強姦がなかったという根拠にはなりえない。
ちなみに、要請や案を受けて実際に慰安所設置へ乗り出したのは、参謀だった長勇中佐。そう、南京事件における捕虜殺害事件で責任者の一人と目され、悪い意味での武勇伝が多い*8。しかも件の松井大将による叱責に対し、嘲笑をもって応じた犯人と目されている人物だ。
「ご想像通り突っ込み放題 それでも情報の更新はあるようで……」*9などとパネルへコメントする前に、作者自身が情報の更新をするべきではないだろうか。とりあえずは10年以上前の情報からでいいからさ。

*1:http://d.hatena.ne.jp/furukatsu/20090807/1249579917

*2:11頁。

*3:http://blog.livedoor.jp/akito3ta/archives/51700234.html

*4:12頁。

*5:1頁。

*6:少し調べてみると、大手出版社からも本を出しているらしい。

*7:それぞれ22頁、23頁。フリガナは省略。

*8:http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20071201/p1

*9:5頁。