法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

当該の書籍を読んでいないのに自説を取り下げたと判断できて、その判断を理由として当該の書籍を読まないと宣言する謎

「novlunoさんによる「慰安婦」基本的な事実解説」への反応 - 法華狼の日記で言及した[twitter:@haku_mania_P]氏から反応があった。

「都合の悪い本当のこと」とは何のことなのか、さっぱりわからない。haku_mania_P氏はエントリのコメント欄に何度か書き込みをしたが、その答えは明確にされなかった。
しかも、きちんと自説の根拠を提示しないのみならず、「あえて本題には触れないで、相変わらず支援砲撃にとどめましょう」といった「私のスタンス」を理由として根拠を出さないという態度に出た。

ここまで書いても判らないようであれば、貴殿の中でかなり強力なバイアスがかかっているので、書いても無駄でしょう。
また、踏み込んだ内容になるので、私のスタンスと外れます。

申し訳ありません、それをやるとネタばらしになる可能性がありますので、、現時点ではお待ちいただけると助かります。

…とこの後数行書きましたが、削除。深く内容に突っ込んでしまいました。

…とこの後やはり数行書いたのですが、削除/割愛。私の立場の完全なるネタばらしになります。

いろいろな態度を政治問題や歴史認識の論争で見てきた。思わせぶりに語りながら根拠を提示しない相手も珍しくなかった。しかし、さすがに恥ずかしげもなく理由にならない理由をもって根拠の提示から逃げる態度は初めてだ。


そして、きちんとした歴史資料を、具体例として吉見義明『従軍慰安婦』等を読んだかとid:chada_5氏から質問された末に、ようやく未読であることを認めた。

読む価値が認められなかったので、未読です。
といいますのも、そもそもこの問題については、当初「とっくの昔に謝罪/賠償が済んでいるはず」という「ごく普通の認識」でありましたため、興味もありませんでした。

基礎的な入門書すら読まないまま学問上の通説を否定する。そこまでは、やはり珍しい態度ではない。上杉聰『脱ゴーマニズム宣言』によると、テレビ朝日のディスカッション番組『朝まで生テレビ』で藤岡信勝氏や西尾幹二氏が『従軍慰安婦』を読んでいなかったという記憶が語られている*1
しかし、haku_mania_P氏は読まない理由がふるっている。このエントリタイトルでまとめたように、書籍を読んでいないのに自説を取り下げたと判断し、その判断を理由として書籍を読む価値がないと主張したのだ。

この状態でまず「ゴーマニズム宣言」に触れ、これが問題化していることを知りました。
ただし、このまま「片方の意見だけ見るのはよろしくないな」と「両論目にすべし」を実践するため、件の書を探しておりましたところ。
吉見教授ご自身が「強制性がなかったこと」を認めてしまった(朝生)ため、「ああ、この人は自説を取り下げたのだ」と解釈したためです。

読んでいないのに、どのようにして吉見教授が『従軍慰安婦』に書いた「自説」を知って、それを取り下げたと判断できたのだろうか。
そもそも『朝まで生テレビ』で吉見教授が述べたのは、日本の植民地における募集段階での組織的な強制連行を命じる文書資料が未発見という程度のこととされている*2。これは『従軍慰安婦』で述べた見解を踏襲していたにすぎない。
日本軍の資料は敗戦時に破棄や湮滅されたこと*3、残された資料も多数が非公開であったこと*4、どちらも『従軍慰安婦』に明記されている。
朝鮮半島についても、騙されて集められた例が最も多かったと明記され*5、暴力をともなう強制連行についても実行犯は民間人だろうという推測をくわえている*6
従軍慰安婦』に明記していた自説をそのまま述べたら、未読だった者が言質をとったと勘違いしただけというのが真相だろう。

その後の氏の著作については、おそらく皆様もご存知の通り、自説をやや後退しての論を展開しております。
が、もはやこれは「結論が先にある負け惜しみ」にしか見えなかったため、こちらも読んでおりません。
ちなみに、今でも「従軍慰安婦に謝れ」的な「結論が先」にあるわけではなく、「先に歴史資料を研鑽した結果、事実としてのこういうことがあった」的な本や論述は、探しておる最中でもあります。
が、私も未熟な身ゆえ、なかなかそういった名著にたどり着けておりません。

「おそらく皆様もご存知の通り」などと自分が知っているかのような口ぶりで言及しながら、空白もおかずに未読と告白する態度は、『従軍慰安婦』に対する態度と全く同じ。
しかも、読んでいないのに「結論が先にある負け惜しみ」にしか見えないとは、まさしく「結論が先」な態度といえるだろう。


他にも、haku_mania_P氏の問題点は多いが、コメント欄に私をふくめて複数の批判があるので、そちらを参照のこと。
ただ、誰も指摘していないところで、一つ気になった発言がある。

どうもこう、ここは私のような「異物」に対して、ずいぶんとあたりがきついというか、排除傾向が強いような言動が散見されます。
本来は、名指しでこちらに召還されたのが始まりでしたが、たとえばそれはそもそも「このレンタルスペースのシステムが勝手にやったことで、俺自身は呼び出した覚えはない」ですとか。
右傾向が強い俗にいうネトウヨ系のブログのように、「馬鹿見つけた!こいつら上から目線で晒して身内だけで馬鹿にして遊ぼうぜ!」というかなりクローズな場所であった、ですとか。
もしくは、「資料」「史学」「研究」などのキーワードが多く出ますとおり、印象操作系の単語の多さは目につきますが、本来はそうでなく「歴史研究を真面目に討論する場所」ですとか。
その他諸々の理由で「邪魔」なのであれば、素直に総申していただければ、さっさと去りますので、どうぞお申し付け下さい。

この次のコメントにおいて、haku_mania_P氏は「ぶっちゃけ飽きました」「もはやこちらで得られるモノももはやないと確信いたしました」「撤退いたします」と書いた。
だが、そもそも最初から相手に何もいわれなくても、書き込みをやめること自体は自由なのだ。それなのに「排除傾向が強い」と評して、「撤退」の「理由」を求めた。あたかも口実を欲しているかのように。
未読であれば最初から素直にそういえば良かったのだし、撤退したいなら黙って去れば良かったのだ。それなのに、どうしても一言いいかえしたい欲望が先走り、理由にならない理由を持ち出した。それこそがhaku_mania_P氏の不思議な態度を生み出した動機だろうと思われる。

*1:108頁。MLを記録した「半月城通信」というページにも、同様の記述があった。「西尾幹二教授の学問的姿勢」という見出しを参照のこと。http://www.han.org/a/half-moon/hm028.html

*2:インターネット上の伝言ゲームによって、かなり変容されている。もともと信頼できないWikipediaでも、「慰安婦」の項での「植民地での奴隷狩り的強制連行は確認されていない」「挺身隊が慰安婦にさせられた例も確認されていない」という記述と、「吉見義明」の項での「強制連行を裏付ける物理的な証拠が旧植民地にて発見されてない」「外務省が非公開としている資料から発見される可能性がある」という記述とでは、ニュアンスが全く異なる。

*3:3〜4頁。ちなみに、吉見教授が発見したことで有名な、日本軍の関与を示した公文書については、残っていた経緯が5頁にて簡単に記されている。

*4:10頁。

*5:92頁。

*6:98頁。