法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『旧怪談 耳袋より』京極夏彦著

題名は「ふるいかいだん」と読む。怪談雑誌『幽』に連載していた『旧耳袋』をまとめ、改題したもの。
江戸時代の随筆集『耳嚢』から題をとり、それだけでは必ずしも恐ろしくはない奇妙な出来事に、時系列をいれかえたり背景を読み取ったりして、結末で恐怖が浮かび上がるように翻案したもの。『耳嚢』の原文が各怪談の末尾に収録され、著者がどのように翻案したか見比べて楽しめる。逆に、先に読みやすく翻案された小説を読んでいるため、当時の言葉づかいで書かれた『耳嚢』が読みやすくもある。
しかし、奇妙な読後感を残す掌編としては面白く感じつつも、怪談としての出来は高くないように感じた。正直にいって、あまり怖くないのだ。元ネタで名前が明かされている人物まで仮名にする趣向は面白いが、なぜかアルファベットで記されている。他にも地の文で現代にしかない概念や言葉が登場し、古めかしさを損なっている。怪談っぽく時空を特定しない物語にしたてなおしたいなら、役職名だけ記せば充分だと思うのだが。