法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

映像作品としてはOK、主人公の最低ぶりが完璧に表現されているという意味で


チャンネル桜による、上記動画が話題になっている。特に14分ごろからの、水不足と聞いてボランティアへ向かった先から断られ、逆に被災者を感情的に批判するところが怒りや失笑をかっている。
チャンネル桜が被災地に乗り込み、被災民に説教、被災民が謝罪 : ヴィブロ
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制作者自身が主人公として活躍する自分撮り映画らしい、何とも自己愛に満ちた内容ではあるが、これが報道として自ら公開しているところで逆説的に興味深い内容になっていると感じた。映画『玄牝*1に対する柳下毅一郎評に近い。
玄牝 (2010): 映画評論家緊張日記

 ところが映画としてはこれがなかなか面白いのだ。河瀬直美は自分でも自然分娩で産んだ(その瞬間を映画に撮った!)くらいの人だから、基本的には吉村医院とそこに集う妊婦たちにシンパシーを抱いているのだが、同時に吉村病院のほころびも撮ってしまっている。結局自然分娩で出てこなくて、救急車で近くの病院に搬送されて帝王切開で出産した妊婦とか、吉村医師が「神の摂理なんだから死ぬものは死ぬんだ」って言い放ってるとことか、助産婦の一人が、自分の妹が「ここの妊婦にはついていけない」と感じて吉村医院での出産を拒んだことを告白するとか。あきらかに河瀬直美のドキュメンタリスト魂が本人の思想を裏切っている。結果として吉村医院のカルトっぽさが浮かび上がってきているのである。

ドキュメンタリー映画には、いわば『ゆきゆきて、神軍』枠というものがある。良くも悪くも常識外の存在が固定観念をゆるがそうとする作品群だ。話題になった反イルカ漁映画『ザ・コーヴ』も一例に数えていい。
下手な鉄砲がいくつか命中するか、常識外の存在ゆえ禁忌をのりこえられるか、それとも常識が相応に正しいことを再確認させてくれるか、それは作品ごとに異なるし観客の読解能力も試される。チャンネル桜の場合は、ある種のボランティアの一面を切り取った作品として、結果的に興味深い完成度を示した*2
もちろんノンフィクションである以上、作品に登場したボランティアは現実の存在として批判されるべきであることに変わりはない。動画に対するチャンネル桜の釈明を待つ必要はない。

*1:自然分娩を肯定的に描いたドキュメンタリー映画。予告などで内容は知っているものの、私は未見。カルトぶりを、あえてホラー映画という観点で読み取った罪山罰太郎評も面白かった。http://d.hatena.ne.jp/tsumiyama/20101109/p1。ちなみに超映画批評では70点と高得点をつけている。http://movie.maeda-y.com/movie/01532.htm

*2:まあ編集が下手だし構図は凡庸だしで、映像作品としては評価できないが。視聴する側が能動的に面白場面を見つけていかなければならない。