法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

過去は生きている〜従軍慰安婦論争を例にして〜

前エントリ*1では「かつての支持層や中立を標榜する層」と表現したが、正直な感覚をいえば、わざわざ個別の層に別ける必要性はあまり感じていない。
あくまで個人的な観測範囲の話だが、在特会に言及しつつ相対化をはかろうとする層は、たいてい数年前には嫌韓流と同程度の誤謬を主張したり支持していた層である率が高い。


一例として、数年前に有名だったブログから該当するエントリを示しておこう。
25 o'clock 久しぶりの更新のお知らせ*2

・あからさまな排外主義、民族主義を打ち出す団体が出てきて、同じに見られるのが苦痛になった(ex.在日特権を許さない市民の会維新政党新風など)

特に、最後に名指しした団体。
当ブログの読者は彼らの支援者も多かったと思われますが、私は彼らには全くシンパシーを感じません。
というか、大嫌いです。
彼らの言動や行動を見て「こいつら狂ってるな」と感じない人は、はっきり言って朝鮮総連や民潭、その他多数のプロ市民団体を笑えません。
両者とも右か左かという違いはあれど、本質的には変わりありません。

これまで、朝鮮系民族団体や左翼団体、リベラル系マスコミが作り上げてきた嘘やダブルスタンダードは、何も汚い手段に訴えなくても論理だけで勝てます。
彼らの主張には数々の矛盾点や不合理な点があります。
それらを冷静に指摘し、改善させれば済む話です。
仮に改善に応じなくとも、一般市民に矛盾点を提示して「これ、おかしいですよね」と広めれば、外堀は埋まります。


にもかかわらず、「朝鮮人は出て行け!」とか「朝鮮人を海に沈めろ!」等と大声を出すことは、いくらロジックが正しくても逆効果です。
世の中には未だに情報弱者が多数存在するわけで、彼らは無邪気に「在日は強制連行されたかわいそうな人たち」と信じ込んでいます。

まさに、在特会などは手法が悪いだけで、その論理は正しいという典型例だ。


さて、このブログが実際にどのような程度の主張を行ない、どうインターネットで受容されたかの一例として、従軍慰安婦関係のエントリと、それについたはてなブックマークを示しておこう。
25 o'clock 「慰安婦問題は強制連行の有無ではなく人権犯罪ということの本質が重要なのだ」と仰る北海道新聞に電話してみました
今となっては誰も参照しないような愚論だが、とりあえず「悪魔の証明」を持ち出せば反論できるというような安易な態度は批判しておこう。
mumur氏は自説を証明したいなら、従軍慰安婦制度において強制連行だけが問題にされてきたという証拠を示すべきだったのだ。多数の資料が焼却隠滅された太平洋戦争時の出来事ではなく、一般向けに出版された書籍や雑誌が資料になるのだから、ずっと容易なはずである。
そもそも学問上も論争史も北海道新聞の見解でほぼ正しいのであって、それに反論する側が相応の根拠を示さなければならない。
はてなブックマーク - 25 o'clock 「慰安婦問題は強制連行の有無ではなく人権犯罪ということの本質が重要なのだ」と仰る北海道新聞に電話してみました
そもそも専門家でもない地方新聞の電話応対者を問い詰めること自体が無意味とApeman氏が指摘している。いってみれば当然で、どのような詭弁にも完璧な反論が即座にできなければ報道してはならない、などというはずがない*3
そして、後日に書かれたエントリを見ると、mumur氏が誤った固定観念を持っていたことが確定する。
25 o'clock AMLの従軍慰安婦肯定派の皆さん ようこそ25o'clockへ

最初は吉田清治の「私の戦争犯罪 朝鮮人強制連行の記録」でございます。
慰安婦(=キーセン、売春婦)という存在は日本人も朝鮮人もみんな知ってたの。
ところが、吉田が「私は軍の命令で性欲処理のために朝鮮人女性を拉致した」と告白し、朝日新聞がこれを使って一大キャンペーンを始めると、朝鮮人は「何?キーセン以外にそんな極悪犯罪があったのか?ふざけるな!!」と煽られて、更には「私が強制連行された張本人だ」と言い出す者まで出てきてしまった。
そこでこれに疑問を持つものが調査すると、吉田清治の告白は嘘だと判明した。本人もこれを認めるに至った。


まとめてみます。



朝日新聞等のサヨクが「日本軍が慰安婦を強制連行した」キャンペーンを始める
 ↓
自称従軍慰安婦が現れる
 ↓
強制連行否定派が現れる

最初は、従軍慰安婦問題で否定派が否認しようのない出来事として白馬事件に言及するべきだろう。研究書として千田夏光従軍慰安婦』を示さないのもどういう理由からか。
それはさておいても、吉田清治手記が朝日新聞に取り上げられるより前の1990年5月時点で、盧泰愚大統領来日に合わせて韓国の女性団体から挺身隊*4問題への謝罪と補償を求める共同声明が出されていた*5。対する日本政府は6月6日の答弁において「民間の業者」に責任を負わせており、否定論の雛形まで形成される。それに応じて重ねて出された10月17日の共同声明において、「日本政府は朝鮮人女性たちを従軍慰安婦として強制連行した事実を認めること。」という要求を行なっているのである*6
ついでに指摘するなら、被害者が名乗り出て証言が集まるにつれ、強制連行が軍隊の直接的な暴力をともなう比率が低いことがわかり、韓国や台湾では騙されて従軍慰安婦にされた比率が高いことも判明していった*7。強制連行が従軍慰安婦論争の主要な争点ではなくなっていった理由を、mumur氏は正反対にとらえているのだ。


前段となるこちらのエントリも興味深い。
25 o'clock 「日本軍が文書を廃棄したから証拠は無い」という北海道新聞に電話してみました
歴史に「推定無罪」を持ち込む発想からして粗雑だし、日本軍の重要書類が焼却されている歴史をわざわざ電話で質問するとか、ため息が出てくる。
はてなブックマーク - 25 o'clock 「日本軍が文書を廃棄したから証拠は無い」という北海道新聞に電話してみました
こちらのはてなブックマークでは批判的なコメントがなく、無邪気に楽しんでいるものだけ。はてなでは左翼の声が大きいという奇妙な主張があるが、少なくとも特定の場所では古くから成り立たなかったことを示す証拠である。


あるいは、mumur氏は極端な例にすぎないと主張する意見もあるだろうか。確かに「25 o'clock」も前身となった「mumurブルログ」*8も、人気こそあれど在特会と同程度の歴史認識しか持たない人々しか支持しなかったとは思う。では、もう少し有名なサイトを見てみよう。
現在では不定期更新だが、一時期は絶大な人気を誇り、管理人が現在も一部でライターとしてコラムを書き続けている「ちゆ12歳」だ。朝日新聞記者ブログの炎上について書いたエントリで、従軍慰安婦問題に言及している*9
「しがない記者日記」騒動 - ちゆ12歳

記者さんのオススメ文献は吉見義明教授の「従軍慰安婦でした。
 のちに否定された記述も多く、少なくとも、このデリケートな歴史の問題に対して「これ1冊でOK!」なんて本ではないのですが……。
 そもそも、そんな有名すぎる文献は読んだ上で反論している人がほとんどだと思いますが、記者さんの頭の中の「右翼」はよほど不勉強みたいです。

従軍慰安婦』は1995年初版であり、最新の研究が反映されていないものの、はたして「否定された記述」などどれだけあるだろうか。
はっきりいえば従軍慰安婦否定論者なんて不勉強な人しかいない。歴史を勉強すれば否定論者になるはずがないから。納得できない人のため具体例をあげておくと、たとえば否定論者として現在も活動している西岡力会長は白馬事件を1998年まで知らなかったという。その3年前に出た『従軍慰安婦』は薄い岩波新書で、しかも吉見教授の文章は平易で読みやすい部類だというのに、全く読み込んでいなかったのだ*10
そしてこの『従軍慰安婦』は、確かに深く歴史を知るには物足りないし、証言や資料の充実は他の書籍に譲るが、取り上げる問題の視野が広く、問題設定が的確であるため、否定論者を批判するためには今なお最適の1冊だ。
逆にいうと、15年以上前から否定論者が全く進歩していないということでもある。前述した1990年の共同声明なんて、Wikipediaにすら詳述されていない。どれだけ遅れているんだよ、インターネット。


最後に、現在も否定論者が全く進歩していない例を紹介しよう。はてなブックマークが全くついていないあたり、孤軍奮闘している小倉秀夫弁護士の人徳であろうか。neon_shuffle氏*11など、どこかで見かけた顔ぶれもそろっている。
強制連行は事実である、は正しいか - Togetter

強制連行があったことは事実。RT @neon_shuffle: @Hideo_Ogura 一つ付け加えておくと、外国人参政権最高裁判決で傍論を付した園部判事は、「在日は強制連行の被害者なのでかわいそうだと思った」旨を告白しています。さて、強制連行は事実なんですかね *Tw*
Hideo_Ogura
2010-07-20 09:56:28

YouTube - 軍による慰安婦強制連行の客観的証拠はなかった http://bit.ly/bZu9Z6 RT @Hideo_Ogura: 強制連行があったことは事実。RT @neon_shuffle
takurou7
2010-07-20 10:00:30

売春も当時は合法だったし。今の法律を過去に適用させようとするんじゃないよ。ほんとに弁護士?RT @Hideo_Ogura: 人権侵害となる行為を国内法的に「合法」化し公務員にこれを遂行させていれば、なおさらそれは国としての行為となっていくのではないかなあ。、普通に考えて。
takurou7
2010-07-22 11:41:06

国際法的に避難されてるだろ。徴用は国内・国際法的に問題になってないぞ。いい加減にしろ。RT @Hideo_Ogura: つまり、南アのアパルトヘイト政策は国内法的には合法だったのだから、問題視すべきではなかったと。RT @takurou7: 売春も当時は合法だったし。今の法律を過
takurou7
2010-07-22 11:45:04

従軍慰安婦制度で横行していた前借金等の拘束、人身売買、騙しによる募集、若年者の売春、といったことは当時の日本でさえ違法であった。このことは当然『従軍慰安婦』にも書かれている。


過去に向き合うことは大切だ。それも歴史的な事件についてだけではない。ほんの数年前のインターネット状況を見返すだけで、直視しがたい様々な言葉を目にする。
しかしどれほど忘れたくても直視しなければならないのだろう。たびたび間違ったことを書いてしまう1人として、そう思う。

*1:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20100811/1281536518

*2:今になって読むと、「情報弱者」という表現がどのような場所で使用されていたかという資料にもなっている。

*3:もちろん、完璧に反論できるなら、それが望ましいのだが。

*4:この時期は「慰安婦」と同一視されていた。挺身隊と騙して慰安婦に仕立てた例はあるようだが、現在では別の問題と解される。

*5:吉見義明『従軍慰安婦』3頁。

*6:前掲書4頁。

*7:『脱ゴーマニズム宣言』33頁。

*8:http://blog.livedoor.jp/mumur/

*9:記者ブログの炎上については、問題の記者がどのような批判を浴びていたかすら具体的に書かれていないため、論評は避ける。

*10:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20100426/1272317045

*11:http://togetter.com/li/41139での「在特会がカルトでクズなのは異論無いけど、問題は一方の当事者である在日朝鮮人が何にも悪いことをしたと思っておらず、むしろ差別されたと思っている点にある。neon_shuffle2010-08-11 19:55:30」以降のツイートもまた在特会を都合良く切断処理している一例だ。