法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

頭の悪い作家による、頭の悪い社会時評

作家は自分より頭が良い登場人物を作れないという考えがある。もちろん、それは間違った考えだ。
作家は、世界の情報を自由に制御し、必要であれば隠すことができる。作家が悩みぬいた時間を省略し、登場人物が短時間で理解や対処する描写をすれば、頭の回転が早く見える。さらに、背景を省略して読者に思いを巡らさせ情報を補完させれば、作家と読者が結果として共同作業したゆえの頭の良さを、登場人物が獲得できる。
ただし、登場人物が現実の出来事について主張する場合は必ずしも当てはまらない。主張に反する情報を意図的に隠せば作家は不誠実のそしりを受けかねず、重要な情報を知らない登場人物も頭が悪く見える。


bogusnews - ほんとうの真実をあなたに伝える唯一のネットメディア
もう少し慎重な内容にできないものか、と「ボーガスニュース」を見ながら思う。……いや、ホビージャパンによる企画サイトの話だが。
http://pixel-maritan.net/maritan_diary/
各国軍隊を擬人化した「ぴくせるまりたん公式日記まりたん日記」は、ほとんどがイベントやグッズの広報だが、ところどころに社会時評が入っている。
時事ネタを扱っているためか、前に「ぴくせるまりたん」について書いた時*1よりも印象が悪い。洒落や風刺になりきれていないし、あまり題材について調べてもいない。書いていいことかどうか区別できているかも気になる。
http://pixel-maritan.net/maritan_diary/?m=20080521

「隣国と緊張関係にあるものの」って
まわりのキ●ガイ国家がいなければもっとランクがあがるってことか?

世界中から見ることができる商業サイトで、こういう発言を載せる神経がよくわからない*2。これでは株式会社アーツビジョンが声優降板を決定したのも、正しい判断だったと思えてくる*3
最近もOVAの『ジョジョの奇妙な冒険』で悪役がコーランを読んでいる描写をイスラム世界から問題視され、自粛騒動が起きたばかりだ*4。問題視することが妥当か、自粛が必要だったかは別に、出版社は不要なリスクを背負わないのが通例とばかり思っていた。
少し前に松本零士『キャプテンハーロック』がOVA化された時の逸話を思い出す。敵兵器に六芒星が使われていたことに松本氏は驚き、完成していたアニメを放映延期させ、デザインを差し替えた*5ダビデの星を敵が使うことで、ユダヤ人への偏見と結びつかないようにという配慮からだ。松本氏は、著作権騒動等には首をかしげるし、作品の劣化も否めないと思うが、社会に対する誠実さはもっと評価されていい人だと思う。
http://pixel-maritan.net/maritan_diary/?m=20080529

気をつけ! まりたんだ!
こまった人がいたら助ける。当然のことだ!

『中国、四川大地震の被災地支援に自衛隊の派遣を要請』
中国政府が日本政府に対し、四川大地震の被災地支援のため、自衛隊の派遣を要請していることを明らかにした。(後略)
『「中国への自衛隊派遣反対」 社民・福島党首』
 社民党の福島党首は28日の記者会見で、日本政府が中国・四川大地震の被災地に救援物資を運ぶため自衛隊の輸送機派遣を検討していることについて「反対だ。自衛隊は災害救助団体ではない。行くなら、自衛隊としてではなく行くことが必要だ。なし崩し的に海外に行くようになるとよくない」と語った。

こっちの“こまった人”たちはどうしたらいいのだ?

災害地での展開・救助能力、人員のマンパワーという面からも自衛隊の出動は理にかなっていると思うのですが…
阪神大震災のおりに自衛隊の災害救助を妨害しつづけた村山首相を思い出しますね…

結局、行かないことになってしまいました…
                <5月30日補足>

自衛隊の救援活動能力が高いことは確かだが、技術がある唯一の存在というわけでもない。
結局は派遣されないことに決まったことも伝えているのだが、その理由が書かれていない。これでは経緯を誤解しかねない。見た目はブログでもコメントやトラックバックを寄せられない架空日記なのだから、説明不足は努めて避けるべきだろう。
http://mainichi.jp/select/weathernews/news/20080530ddm001030017000c.html*6

 中国・四川大地震の被災地に航空自衛隊の輸送機でテントや毛布などの救援物資を運ぶ計画をめぐり29日、日中両政府間で当面は見送るべきだとの意見が強まった。本来の目的である多量の物資輸送には、空自の輸送機より民間の貨物機の方が積載量が大きいという実務上の理由に加え、中国側が今回は受け入れの環境が十分整っていないとの判断に傾いたためだ。政府は民間機での輸送を検討している。

 テントや毛布の提供は、中国側が要請してきた。その際、自衛隊の輸送機で救援物資を運ぶことについて、中国軍関係者が28日、受け入れる考えを日本側に伝えていた。これを受け政府は、C130輸送機で陸上自衛隊が備蓄している毛布約4000枚とテント約200張りを、空自小牧基地(愛知県)から、四川省成都に空輸することを検討してきた。

 しかし、C130では3回に分けて輸送しなければならないのに対し、民間機は一度に数倍の量を運べるという。また、同型機はイラク復興活動にも派遣されており、運用に余裕がない事情もある。

 一方、外務省の斎木昭隆アジア大洋州局長は29日、北京で中国外務省の武大偉次官と、この計画について協議。関係者によると、中国側の受け入れ態勢などの事情について説明があったという。【古本陽荘】

毎日新聞 2008年5月30日 東京朝刊

まず「中国政府が日本政府に対し、四川大地震の被災地支援のため、自衛隊の派遣を要請していることを明らかにした」と「まりたん日記」が引用した報道とは、要請した主体や経緯が異なるのが気になる。
そして積載量が自衛隊機より民間機が多いと報じられる一方、逆に自衛隊機でなければ不可能な救援という報道が見当たらない。これでは政治的な意図を勘ぐりたくもなる。困っている人を助けることを口実に、手続き的正義を踏みにじる前例を作ろうとしていたのなら、それこそよほど困った話だろう。日中戦争ソ連のアフガン侵攻、イラク戦争、等々で戦端を開いた口実を思い出す。
さらには軍事的組織*7を動かす手続きの煩雑さ、イラク派遣による機体数不足を思えば、民間機関を使うことで致命的な遅延を招くとも思えない。結果的に事態の経過を見る限りは、救援活動の重要さを指摘しつつ手続きの正しさを重視した福島瑞穂党首の懸念こそ現実的だったと思える。
http://pixel-maritan.net/maritan_diary/?m=20080516*8

『グリーンピース、“鯨肉横領疑惑の証拠品”として運送会社倉庫から鯨肉を無断で持ち出し、食べる』
「今回の調査の中で私たちも食べる行為をしなければならなかったので、
食べました
痛いニュース(ノ∀`):さんより>

誤情報が多くて、歴史修正主義や民族差別発言を肯定的に載せるような「痛いニュース」を情報源に使うべきではない。他に情報源を探せなかったわけでもないだろうに。
なお、ネットで出回っているグリーンピースが鯨を食べた情報については、ヤメ記者弁護士が問題を指摘している。
グリーンピース鯨横領告発問題、もう一ついってみよう!~GPメンバーは確保した鯨肉を食べてはいない… - 情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

おいおい、これは、確保した鯨肉のことじゃなく、横領したとみられる鯨肉の流通ルートを調査したときの話だろう…。

質問があると、確保した鯨肉についての質問ではないことが明確になるため、削除したのだろう。

発言した経緯の部分で、捏造に近い編集がされているという。キャプチャー画像やYOUTUBE動画が編集されていることを念頭におくのも重要なメディアリテラシーということだ。
だいたい、グリーンピース少数民族による文化的捕鯨は否定していないと記憶している。捕鯨反対運動に対する批判の中には、鯨食せず文化的価値を知らないというものもある。環境保護を理由に捕鯨を禁じているだけなら、市場流通している鯨を食することが矛盾しているとは断言できず、信者の豚食を禁じているイスラム教ジョークを引くことに意味がなくなると思うのだが……*9
http://pixel-maritan.net/maritan_diary/?m=20080427

なるほど、紅旗を振り回す中国人は「若者たち」で、チベット民衆の救済を訴える人々には「右翼団体がまじって」いるわけか…
ほかにも“中国に対する抗議活動”を“リレー走者に対する妨害行為”として矮小化して報道するニュースはおおかったな
同じことをつたえているはずなのに、言葉のつかいかた次第で印象はだいぶ変わってくるものだぁ。うむうむ

ちなみに「まりたん日記」は約一カ月後*10に、民主党円より子、下田敦子両議員が美少女ゲーム規制を請願したことを批判し、「表現の自由以前の問題である」「とおっしゃっていますが、自由を規制することの重さを民主党は理解してほしいです」と、民主党全体へ理解を求めている。もちろん民主党以外にも同様の批判をするなら、政党に強い責任を負わせるのも間違っていない。だが民主党は」という言い回しでは、与党自民党でこそ規制論の活発な現状を隠蔽しかねない。 ここは“民主党も”と表記するべきではないか。
本題に戻ると、赤旗チベット動乱について中国寄りの報道が多かったことは事実だが、ここで取り上げられている記事は別に誤りではない。実際にチベット解放デモには右翼団体が足を引っぱっており、他所ではid:y_arim氏らが被害にあっていた*11。主張が民族差別に堕し、直接には無関係な韓国大使館へ向かうような団体こそ、チベット解放デモが広く報じられない原因の一つだろう。中国応援団が若い学生でしめられていたこと自体も事実だ。動員はかけられていただろうが、必ずしも中国政府主導ではなく、かなりの率で留学生共同体における愛国心が高揚した結果と思う*12
ところで「じえいたん」は自衛隊を擬人化したキャラクターであり、日本政府側の組織だ。つまりチベット動乱においては中国応援団を守ってデモを鎮圧した側にあたる*13。ここで長野聖火リレー報道を評しているのは別軍隊がモデルのキャラクターとはいえ、気になるところ。「ぴくせるまりたん」には自衛隊が協力しているのだが、細かい描写を見る限り、作り手は自衛隊に対して勝手な幻想を投影しているらしい。


「ボーガスニュース」は悲惨な事件を扱っても、私が知る限り責任の持てない一般人を笑いの対象にしない。個人を風刺する時は、おおむね一定の発言力ある者を取り上げている。むしろ事件の悲惨さを作り、あるいは増すような存在を皮肉っていることが多い。題材をブラックジョークとして笑えるだけの料理もしている。来訪者を楽しませるよう、相応に手間をかけているのだ。
比べると、社会時評の形式として「まりたん日記」は相当に安易な部類に入る。キャラクターの台詞はネットにありふれた浅い内容で、流行りの主張を見つけて切り張りした程度にしか見えない。自衛隊に協力をあおいだなりの視点や情報が書かれているわけでも、本職の物書きらしい洒落た言い回しがあるわけでもない。
アイコンを活用した架空キャラクターによる対談形式が、一時期流行った「世界史コンテンツ」*14を思い出させることも印象が悪い一因。中江兆民『三酔人経綸問答』等と違って、議論を中立的に戦わせる工夫や素振りもなく、複数キャラクターの台詞である意味がない。
広報という面から見ても意味が感じられない。無料コンテンツとはいえ、商業的サイトに置くべき代物だろうか。せめて架空キャラクターを使った発言ではなく、更新が止まっている制作者日記*15に書くべきだ。現状ではキャラクターの印象まで悪くなってしまう。

*1:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20070530/1180478272

*2:米軍をモデルとしたキャラクターの発する台詞としておかしいことは横に置く。後半、日本も安保体制で常時米軍が駐留し続けていることを自衛隊をモデルにしたキャラクターが無視しているのも、意図的な嘘として見逃す。しかし米軍基地に批判的な思いが強い人は、ネタとして見ても嫌悪感があるかもしれない。

*3:http://pixel-maritan.net/maritan_diary/?m=20060502によると「今回の作品『ぴくせる☆まりたん』の出演につきまして、当初出演予定でおりましたが、昨今の世界情勢等の時勢も鑑み、作品内容を検討した所、大変申し訳ありませんが出演を辞退させて頂く事になりました。」とのこと。

*4:http://mainichi.jp/enta/mantan/news/20080522mog00m200008000c.html

*5:http://www.animaxis.com/ja/zine/newsletter/view.asp?id=N000805

*6:強調は引用者。

*7:建前を尊重して軍隊とは呼ばない。

*8:引用元は太字に加えてフォントサイズを大きくして強調していた。

*9:ちなみに余談だがイスラム教自体も宗派によっては制限がゆるいことがある。

*10:http://pixel-maritan.net/maritan_diary/?m=20080522

*11:http://d.hatena.ne.jp/y_arim/20080323/1206292114

*12:ただし自発的ということは、言動の抑圧された社会で生まれた鬱積が噴出した事情がうかがえ、けして良いこととは思えない。

*13:http://anond.hatelabo.jp/20080428082612弾圧の主体は警察であり、自衛隊という組織が直接的にチベット解放デモを鎮圧したわけではないが。

*14:架空キャラクターが対談もしくは論駁する形式で、主に歴史修正主義を主張するサイト。ホロコーストはなかったとか、戦前の日本はとにかく悪くなかったとか、内容はありきたり。

*15:http://pixel-maritan.net/staff_diary/