法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

裁くのか、判るのか

長崎市長射殺事件への死刑判決について、前回*1の続きと補足。
ちょうど、拙速な裁判は真相解明に繋がらないという解説を、西日本新聞がしていた。強調は引用者。
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/item/24885

真相究明物足りず 長崎市長射殺に死刑
2008年5月26日 14:54 カテゴリー:社会 九州・山口 > 長崎

 【解説】なぜ、市長は撃たれたのか‐。長崎地裁は城尾哲弥被告(60)に対する死刑判決の中で「不当要求を受け入れない長崎市の首長である被害者を逆恨みし、暴力団幹部の力を誇示しようと考えた」として一応の答えは出した。しかし、選挙戦中の現職市長の射殺という特異な事件の動機解明にはほど遠かった。

 最大の要因は、城尾被告自身が明確な答えを語らなかったためだ。検察側も弁護側も本人や周囲の断片的な話を積み上げて「動機の構図」を描き、裁判所もその枠内で判断を下すしかなかった。

 この裁判では、事前に争点を絞って審理の迅速化を図る公判前整理手続きが導入された。証人尋問で、城尾被告が不規則的に事件の背景事情について発言を求め「真実をご遺族に話したいことがある」と言い出す場面もあった。しかし、公判前整理手続きで取り上げられていないことなどを理由に、その真意や意図を掘り下げることなく、公判は決められた審理内容と回数の通りに粛々と進んだ。

 裁判員裁判には同手続きが原則適用される。動機解明が進まないままに下された死刑判決。「真相究明というよりは、裁くためだけの裁判ではないか」。判決前に伊藤一長氏の遺族が漏らした懸念は現実となった。 (長崎総局・一ノ宮史成)

強調部などは重要。試験に出る……でなくて、私達が参加する裁判で出てくる。私達が裁判に参加する時間的な負担を減らすため、適用されるわけだ。
公判前整理手続きは、裁判が長期にわたった光市母子殺害事件についての議論でよく言及されたので、知っている方も多いだろう。安田好弘弁護士は事実を争えるだけ全面的に争うべきという考えで、それも批判の一因となっていた。しかし公判前整理手続きで迅速な裁判を行いつつ後で争点が増えた時に対応するため、今後の裁判員裁判で弁護側が安田弁護士的な争い方をする場合が増えるかもしれない、などと思う。


もともと法律においては、処罰を目的とした旧法と、更生を目的とした新法という両極の考えがあると聞く。……むろん裁判の現場では、両方の考えを衝突させることがないよう、より良い形を目指して折衷しようと努力しているわけだが……そして現在は裁判の迅速化に従い、罪を科すための裁判と、真相を探るための裁判という両極の視点も表面化してきた、ということだろう。
本来は、慎重に時間をかけて真相を探る裁判であっても、けして罪を科せなくなるわけではない。しかし被告への死刑判決だけを求める人々にとって、裁判が進行している期間は被告が生きのびる無駄な時間としか受け止められてないのが現状だ*2。あるいは死刑以外が求められているなら、判決前までの拘束する期間も刑罰にふくまれることを納得できるかもしれないが*3

*1:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20080528/1212019408

*2:長期の応報感情を満たす以外に被害者や遺族の心身を救う手段を考えない、一部の視野狭窄も原因だろう。だから、高齢であったり重病であったりする原告が補償を求めるような裁判であれば、迅速化に強い意義はある。

*3:最近の裁判では、安田好弘弁護士に対して長期拘束を罰金支払いの代替とする判決が有名か。