法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

拘置所からの手紙は真意を伝えているとは限らない

人の心はゆらぐもの。拘束された状態ならばなおさらだ。


先の光市母子殺害事件判決についてのエントリ*1でも間接的に言及した冤罪事件に、最高裁判決がくだされて、無罪が確定した。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/120224/trl12022417550003-n1.htm

 広島市で平成13年、保険金目的で実母と娘2人を殺害したとして殺人や放火などの罪で死刑を求刑され、1、2審で無罪判決を受けた中村国治被告(41)の上告審で、最高裁第1小法廷(金築誠志裁判長)は、検察側の上告を棄却する決定をした。22日付。無罪とした2審広島高裁判決が確定する。

 死刑求刑の事件で、無罪が確定するのは極めて異例。4人の裁判官全員一致の意見で、横田尤孝裁判官は広島高検検事長時代の事件関与を理由に回避した。

 中村被告は18年5月に別の詐欺事件で逮捕され、放火殺人を自供した。公判では否認に転じ、無罪を主張した。

 同小法廷はまず、最大の争点となった自白の信用性について検討。実妹との接見や手紙などで自白内容を認めている点などを挙げ、「信用性は相当に高いという評価も可能」と述べた。

 しかし、計約5・5リットルの灯油をまいたと自供したのに、被告の衣服や車内などから油成分を検出した証拠がない▽実母の保険契約について漠然とした認識しかない−との2点の理由から信用性を否定した2審の判断を「論理則、経験則に違反するものではない」と指摘し、無罪判決は妥当と結論付けた。

 中村被告は借金返済に困り、13年1月17日未明、広島市西区の実家で実母=当時(53)=の首を絞めて殺害。就寝中の長女=同(8)=と次女=同(6)=を放火で焼死させ、3人の死亡保険金など計約7300万円を詐取したなどとして起訴された。

他の報道記事では、死刑求刑事件に対して最高裁が無罪を確定させることが記録上で初というところに注目が集まっている*2。この産経新聞記事でも主旨は同様だが、個人的に注目したいのは「実妹との接見や手紙などで自白内容を認めている点」だ。
この冤罪事件は、以前から拘束された状況で被告人の意識がゆらぐ例として注目されていた。私も2008年に言及している。
重要事件の冤罪が複数 - 法華狼の日記
むろん光市母子殺害事件でも、裁判において手紙は被告人の心証を落とす決定的な証拠として採用されたわけではない*3。さらにいえば手紙で表現されたのは被告人の内面であって、今回の無罪確定事件のように自白の信用性が争われたわけではなく、事件の被害加害の構図へ影響をおよぼすような内容ではなかった。
だが、手紙が被告人の犯行を裏づける証拠にならないのであれば、被告人の無反省を裏づける証拠に必ずしもならないということも理解していただけるのではないかと思う。

*1:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20120221/1329772134

*2:http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20120224-OYT1T00806.htm「無罪が確定する。記録が残る1978年以降、検察が死刑を求刑した事件で、最高裁で無罪が確定するのは初めて。」

*3:反省に欠けるとされる一部分だけが報じられているが、二審は全体から判断して、わずかながら反省のそぶりを読み取ってすらいた。ただし、後の裁判において、直接的な言及こそなくとも審理に悪影響を与えただろう、という弁護士の推測を複数見かけたことはある。