法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『NHKスペシャル』鬼太郎が見た玉砕〜水木しげるの戦争〜

水木しげる原作というにとどまらず、作者や作品の雰囲気まで映像に落としこみ、重い出来事を軽い語り口で見せる。この軽妙さがいい。
描かれるのは戦闘のない兵士の日常、人間性が削り取られていく日々。そして目をそらしていた過去に再び向き合う作家。
戦闘の大半は原作絵で見せ、視聴者に高揚感をもたらすことがない*1湊川の大楠公*2を引き合いに出す連隊長の描写で、戦いに高揚する者の滑稽さを見せる。


終盤において、主人公は思わず“女”と自らを重ねる。国家の末端に配置され、精神までも拘束された者たち。
序盤において同じそれは明るく、差別性に無頓着な描写がされていた*3。しかし、その明るさは玉砕を前にして反転する。
主人公と廓の女、戦場において誰もが人として認められていなかったのだ、と*4


個人的な話だが、実写の原稿から鬼太郎達が飛び出る展開はアニメ好きには嬉しい驚きだった*5水木しげるの原図を利用しているように見えたが、どういったスタッフなのか興味ある*6

*1:もちろん原作絵の使用は予算を抑えるためもあるだろう。

*2:つまりは無茶な戦略を元に戦うよう命じられ、必然的な敗北を目の前にした楠木正成。主人公が置かれた状況を皮肉り、かつ連隊長の愚かしさを描写している。楠木正成南北朝時代南朝後醍醐天皇に味方し勝利に導いた知将として、戦前から人気が高かった。

*3:戦争に協力するつらさを語っていたが、あくまで愚痴の範囲にとどまり、不満をそらす以上の内容ではない。

*4:http://blog.goo.ne.jp/raps0dia-gi0rgina/e/4c305c8bd2e0bd3da7e1a1c8b1cb6ad1こちらで引用されている文章も必読。やはり軽くて無頓着な語り口だが、水木しげるの経験した「地獄」を思えば、それ以上の地獄と推測している意味は大きい。

*5:もちろんただの遊びではなく、戦争のバカバカしさと水木しげるの決意を、人ならざる妖怪が見つめるという、ドラマとしての必然性もあった。

*6:実写とアニメの融合自体は昔からあったが。