法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ワンピース 〜ハートオブ ゴールド〜』

マッド・トレジャーひきいるトレジャーハンターから逃げだした少女オルガは、ルフィたち麦わら一味に助けを求める。
オルガの父親は、世界を買いとれるほど価値のある金属ピュアゴールドの製造に成功したという。しかしオルガが生まれたアルケミ島は、200年前にこつぜんと消えていた。
そして麦わら一味はトレジャーハンターに追われながら、巨大なチョウチンアンコウに飲みこまれる……


土曜プレミアム枠で放映されたアニメオリジナル完全新作SP。『ONE PIECE FILM Z』の長峰達也監督が、夢と絆の光と闇を描く。
http://www.fujitv.co.jp/fujitv/news/pub_2016/160523-i110.html
キャラクターデザインと総作画監督は前々回SP*1と同じ市川慶一で、長峰達也監督とは『聖闘士星矢Ω』の2期で組んでいる。
コンテも作画監督も多人数で、足りないスケジュールを人海戦術でしのいだのだろうが、つくられた映像には文句なし。絵柄の違いは許容できる個性にとどまっており、むしろ単調になることを防いでいた。特に序盤の、デッサンのタッチをつけたキャラクターの立体感は、これまでのシリーズになかったものだ。
アクションも全般として素晴らしい。鎖を自由にあやつるマッド・トレジャーの能力は、手足をのばすルフィのアンチとして縦横無尽に攻撃の手をのばし、魅力的なアニメーションを提供してくれた。


時系列は映画『ONE PIECE FILM GOLD』の前日譚で、映画と同じ黒岩勉脚本。初めてTVアニメを手がけたらしいが、かなり完成度が高かった。
長大な時間を圧縮するリメイクSPは、短い期間を描いた『エピソード オブ ナミ』*2以外は話運びに感心できなかったが、アニメオリジナルストーリーは昨年末の『アドベンチャー オブ ネブランディア*3までアベレージが高い。登場人物の行動原理が明確で動かしやすく*4、世界観の自由度が広く、主題が設定しやすいため、二次創作がつくりやすいのだろうか。
物語の中心となるのは父娘の絆と、宝を求める心理。錬金術を連想させるオリジナル設定で、特殊な金属を追い求める競争と、200年の時をこえた少女の謎をつなげ、子の不死を望んだ親のドラマを生みだす。
聖書を思わせるチョウチンアンコウの設定も、オルガの乗っていた水上トカゲを伏線として*5、飲みこまれた者たちが体内で分断される展開を納得させる。他人を信用しないのに独り言で本心を明かすオルガの性格や、ピュアゴールドの製造が必ず失敗した歴史もふくめ、劇中に登場する設定だけで説明してみせて、物語の舞台を緊密にかたちづくっていた。
そしてマッド・トレジャーは能力だけでなく、仲間より宝を優先するという性格でもルフィのアンチとなる。両方を欲するルフィの強欲さを非難することで悪役なりの信念を感じさせ、その顛末で人格を強固に完成させる。鎖の能力者が絆を捨てるという構図もおもしろい。


ただひとつ微妙なのはタレント声優。マッド・トレジャーの小栗旬は経験を積んでいて問題なし。しかしオルガと父を演じる浜辺美波と渋川清彦は聞いていてつらいところがあった。前者は200歳の少女、後者は肥満になった学者というキャラクターに設定して、違和感を抑えてはいたが……

*1:『ワンピース エピソード オブ サボ 〜3兄弟の絆 奇跡の再会と受け継がれる意志〜』 - 法華狼の日記

*2:感想はこちら。http://www.fujitv.co.jp/fujitv/news/pub_2016/160523-i110.html

*3:感想はこちら。『ワンピース〜アドベンチャー オブ ネブランディア〜』 - 法華狼の日記

*4:姿を変えたり消せたりする敵に対してサンジが感じた最低最悪の「夢」を、できるだけ明言をさけつつ説明できていた会話劇が凄かった。

*5:台詞での説明はないが、水上を歩行できる能力は、胃液で溶かされずに体内を移動できるように進化したという設定だろう。