法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『大みそかドラえもん 映画30周年!全部見せますスペシャル』どら焼き伝説を追え!/海賊大決戦・南海のラブロマンス/バイバイン/45年後…〜未来のぼくがやって来た〜

新作中編2話と、再放送の中編と短編が1話づつ。大長編映画にまつわるクイズ番組形式のブリッジが入る。


「どら焼き伝説を追え!」は完全アニメオリジナルストーリー。武蔵坊弁慶がどら焼きの元祖を作ったという説をもとに、どら焼きを追い求めるドラえもんが意図せず歴史に介入してしまうという物語が展開される。
歴史介入はあらかじめ正史に組み込まれていたというSFなオチ、それを知らないままのドラえもん達、幼少の牛若丸は臆病者といった各要素は、いかにも藤子F作品らしい。
しかしギャグ描写が多めで、牛若丸の身軽さもデフォルメが激しい。ドラえもんがどら焼きのため実際の歴史に介入する面白味が物語の要点なのだから、それ以外の描写は抑えてほしかったな。


「海賊大決戦・南海のラブロマンス」「バイバイン」は再放送。改めて見ると、どちらも作画が良い。しかし、アニメとしてのアレンジは後者に軍配を上げたい。
ジョニーデップが登場するという映画便乗のため、終盤に別の海賊が介入する展開は、最初の放映時も不評だったものだ。ネタが風化した現在ではなおさら。


「45年後…〜未来のぼくがやって来た〜」は前半が原作通りで、後半をアニメオリジナル展開で大幅にふくらませている。
スタッフは渡辺歩コンテ、宮下新平演出、丸山宏一作画監督。原画には、渡辺歩が前に手がけた回の「一郎」に続いて「二郎」なる偽名っぽい名前が。誰だよ。
ローテで最高のスタッフが集っているだけに、映像は極めて緻密。高低差から坂道の微妙な角度まで完璧に決まったレイアウト、小物まで描き込まれた背景美術、念入りに枚数を使って柔らかく動く作画。野球場面にいたっては、デフォルメされたアニメーションが存分に楽しめる作画アニメと化していた。
さて後半からのアニメオリジナル展開だが、大人ののび太と子供ののび太が入れ替わり、それぞれの視点で街を、つまり現在の社会を見聞していく。
のび太が街で行ったことのない場所へ歩いていく展開は、同じ渡辺歩監督作品である短編映画『ぼくが生まれた日』長編映画のび太と緑の巨人伝』と同様だ。かなり気に入っている展開らしい。市街地を記号として処理することが多い藤子F作品では珍しい展開だが、映像に力があえれば物語の大筋を壊さずアニメならではの描写を付加できることも確かだ。
ただし、疑問が二つほど。まず、サブタイトルにアニメオリジナルの説明文を加え、前半の真相を最初から明かしているのは問題。次に、大人になったのび太が、子供時代の出来事を全肯定していることは危うさを感じた。懐かしさをもって、イジメ等の問題を大人が肯定してしまうことの問題に配慮するなら、もう少し異なった表現になるべきだ*1

*1:未来ののび太は作中でも勝手におやつを食べたりしており、実際には成長できていない描写と読みたいところではあるが……