法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『終りに見た街』

 あまり売れていない脚本家の田宮太一は、プロデューサーになった知りあいから終戦80周年記念スペシャルドラマの脚本をまかされる。得意ではないとして断ろうとする田宮だが、先にまかされていた脚本家が降板したという。しかたなく自宅で資料と格闘しながら脚本を書こうとした田宮。しかし衝撃で目ざめると、普通の住宅街にあったはずの自宅がなぜか森のなかにあった。そこは第二次世界大戦で敗戦する直前の日本だった……


 宮藤官九郎脚本の2時間ドラマ。脚本家の山田太一による同名小説を原作とした3度目のドラマ化で、テレビ朝日開局65周年記念ドラマプレミアムとして2024年9月に放送された。

 原作は未読だが*1、2005年放送の2度目のドラマ化は情報をもたないまま視聴したことがある。よくあるタイムスリップ反戦ドラマかと思いきや、主人公たる父親が気づかぬ間に現代人の子供が軍国主義と一体化していたクライマックスは驚いたし、新たなタイムスリップで強烈すぎる反戦メッセージをつきつける結末も予想を超えたことでフィクションとしてもインパクトがあった。


 2024年版は大泉洋が主人公を演じる。2005年版よりも戦争の記憶は薄れ、メタフィクションのように反戦ドラマに向きあうライトタッチなコメディ色が強い。現代的な一戸建てが突然森の中にあらわれるビジュアルの面白味など、いわゆる「奇妙な味」っぽさがあって楽しい。
 そこから子供たちが軍国主義にのめりこんでいく恐怖や、すべてのドラマを塗りつぶす結末のカタストロフなども、2005年版と同じく反戦ドラマとしての要点は押さえていたとは思う。
 しかし時間改変をめぐる登場人物の努力がかなわない描写や、過去にやってきた主人公たちを観察しているような謎めいた視線など、2005年版では弱かったタイムスリップSFらしい描写もところどころあったのに、それらを登場人物が考察することもなく*2、結末のカタストロフで投げ捨てていったことは釈然としない。ほしい説明を省略しているからこそインパクトのある結末だが、かなり現代的な小道具を登場させた今回は、もう少し説明があっても良かったのではないか。

*1:1981年作品なので国会図書館デジタルコレクションの送信サービスで読めるかと思いきや、まだ公開は図書館内に限定されていた。終りに見た街 - 国立国会図書館デジタルコレクション

*2:当時に実在した流言飛語が実は未来人たる主人公たちの警鐘だったという描写は2005年版と同じだが、脚本のため当時の資料をあつめていた主人公はその符合に思い当っても良かったのではないだろうか。それどころか当時の知識がなければ、多くの流言飛語が実際にとびかっていたことをドラマの視聴者は気づけないと思う。