法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『相棒 season23』第9話 最後の一日

 出産をひかえている恋人のためプロポーズのための指輪選びをする陣川につきあう杉下。かつての同期の女性がTVプロデューサーと結婚したと聞いて家にまねかれた亀山、伊丹、益子。反社集団の銃器売買の現場をおさえようと芹沢たちとともに喫茶店にはりこんでいた出雲は、陣痛がはじまった女性客を助ける。
 そしてTVプロデューサーが担当するはずだったという大晦日の生放送がはじまる。IR事業に切りこんで反社集団に脅迫されていたニュースキャスター桧山の言動がおかしい。娘が誘拐され、指示通りの放送をするよう脅迫されているのだ。悪いニュースではなく良いニュースをつたえようとしてきた桧山だが……


 神森万里江脚本による2時間超の元日スペシャル。髙嶋政伸演じるニュースキャスターの快活でうさんくさいキャラクターを主軸にしつつ、さまざまな時事問題をとりいれた群像劇を展開していく。
 おおがかりな物語のわりに偶然だよりでせまい人間関係におさまっているが、この作品の世界観では成立している。作中で指摘されるように事件と関係する女性とばかり出会う陣川というキャラクターのおかげだ。ほとんど特殊能力の領域といっていい。
 亀山たちを歓待した女性のかかえていた問題や、生放送を代理で担当していたプロデューサーが実は代理ではなかった意味など、前半からけっこうトリッキーな展開も多くてミステリドラマとして飽きさせない。亀山や伊丹を演じる俳優がもう若くないためかアクションの迫真性は足りないが、一般家屋内の淡々とした活劇の奇妙さは楽しかった。


 桧山が少しずつスキャンダルを小出しにしていく生放送という趣向もTV番組として楽しい。ただ、ドラマが元日放送なのは恒例なのだから、作中の生放送も元日に放送されているという設定にすれば、より虚実がいりまじる面白味が出たとも思うが。
 また誘拐事件の背景として、桧山を有名にさせた豪雨災害報道があったことも*1、いやおうなく一年前の大地震から半年後の豪雨まで能登半島が受けつづけてきた災難を連想させる。悪いニュースではなく良いニュースをつくろうとしてきた桧山が美談のためスキャンダラスな犯罪を隠蔽し、自己犠牲の美談と歪曲したことも、さまざまな災害にさいして美談をもとめる心情への批判であり、政治家のスキャンダルを忌避する心情への風刺である。
 あくまで政治家個人のスキャンダルであろうとも、それを無視して政治家から情報をもらうたびに報道の腐敗は深刻になっていく。被害が一個人とその周辺にとどまるとしても、それを報道が無視していいわけではない。小さな報道であばかれる小さな罪をひとつひとつ怒ることの大切さ。知るだけでストレスがかかる情報を無関係な一般人が知る意味。近年の報道に向けられる評価基準に反するからこその意義深さがあった。


 あまりに近年のさまざまな事件を連想させる要素が多すぎて三題噺のような印象もあったし*2、桧山自身の個人的なスキャンダルはニュースをめぐる物語の夾雑物で不要だった気もするが、状況を二転三転させて2時間超を飽きさせなかったことは良かったし、元日だからこそ気持ちをひきしめるドラマとして悪くなかったと思う。

*1:低予算なりに照明を落として最低限のリソースでうまく表現した映像スタッフの仕事にも感心した。

*2:ある犯罪者が元自衛隊であることに、安倍晋三氏の銃殺者を連想するのは考えすぎだろうか。