法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

米国大統領選でドナルド・トランプ氏が銃撃される直前に、ジョー・バイデン氏が銃規制の必要性をうったえていたことは、危機管理能力の高さではないのか

 2024年の大統領選をあらそう候補者では、バイデン氏が新たな銃規制を導入して、その撤廃を前大統領としてトランプ氏が目指している。2月に演説したばかりだ。
トランプ氏、バイデン政権の銃規制撤廃を表明 大統領選勝利なら | ロイター

トランプ前大統領は9日、大統領在任中に銃保有の権利を守ったと強調し、返り咲けばバイデン政権が導入した銃規制を全て撤廃すると表明した。
ペンシルベニア州で開かれた全米ライフル協会(NRA)主催のイベントで演説し、「銃の所有者やメーカーに対するバイデン(大統領)の攻撃は、私の就任最初の1週間、おそらく初日に全て終わらせる」と述べた。

 7月14にもツイート*1においてバイデン氏は銃規制の必要性をうったえ、トランプ氏がそれをこばんでいると指摘していた*2


バイデンが直前に「私は銃規制をしたいが、トランプはNRA(全米ライフル協会)に現状維持を約束した」と呟いているのもまたすごいタイミングだな…


I want to ban assault weapons and require universal background checks.

Trump promised the NRA that he’d do nothing about guns.

And he means it.
私は攻撃用武器を禁止し、全員の身元調査を義務付けたい。トランプ氏はNRAに対し、銃に関しては何もしないと約束した。そして彼は本気だ。


 そしてライターの「ISO@iso_zin_」氏が上記で指摘しているように、バイデン氏のツイートから6時間もたたないうちにトランプ氏の集会で狙撃事件が発生し、ひとりの死者と複数の重軽傷者を出した。
トランプ氏「右耳上部を貫通」、演説中に銃撃 容疑者と参加者1人死亡 | ロイター

中継映像では警護担当がトランプ氏を取り囲む様子や、同氏の顔右側と右耳に血がついた様子が確認できる。シークレットサービス(大統領警護隊)の報道官は、容疑者と集会に参加していた1人が死亡、ほかに2人が負傷したと発表した。

 事件から1時間50分後ごろにバイデン氏は即座に事件を非難する声明を出した。対立候補であるだけでなく、現職大統領としての責任もあるからだろう。


I have been briefed on the shooting at Donald Trump’s rally in Pennsylvania.

I’m grateful to hear that he’s safe and doing well. I’m praying for him and his family and for all those who were at the rally, as we await further information.

Jill and I are grateful to the Secret Service for getting him to safety. There’s no place for this kind of violence in America. We must unite as one nation to condemn it.
ペンシルバニア州でのドナルド・トランプ氏の集会での銃撃事件について報告を受けました。トランプ氏が無事で元気だと聞いて嬉しく思います。さらなる情報を待ちながら、トランプ氏とその家族、そして集会にいたすべての人々のために祈っています。ジルと私は、トランプ氏を安全な場所に避難させたシークレットサービスに感謝しています。アメリカにはこのような暴力は許されません。私たちは国として団結してこれを非難しなければなりません。

 上記の声明は必ずしも早いとはいえないとは思う。しかし候補者ふたりをくらべると致命的なちがいがある。
 2020年の大統領選でトランプ氏は議事堂のバリケードが13時に襲撃された後に議事堂に支持者が向かうように演説でうったえ、ツイッターで議会警察にしたがうよううったえるまでに2時間半以上かかった。
Visual timeline: How Jan. 6, 2021 unraveled inside and outside the Capitol - Washington Post

1:10 p.m.
Trump ends his speech by urging his followers to march down Pennsylvania Avenue. “We’re going to the Capitol,” he said. “We’re going to try and give them [Republicans] the kind of pride and boldness that they need to take back our country.”
午後1時10分
トランプ氏は演説の最後に、支持者たちにペンシルベニア通りを行進するよう呼びかけた。「我々は国会議事堂に向かいます」と同氏は述べた。「我々は彼ら(共和党員)に、国を取り戻すために必要な誇りと大胆さを与えようとします」。

2:38 p.m.
@realDonaldTrump
“Please support our Capitol Police and Law Enforcement. They are truly on the side of our Country. Stay peaceful!”
午後2時38分
ドナルド・トランプ
「国会議事堂警察と法執行機関を支援してください。彼らは本当に私たちの国の味方です。平和を保ってください!」

6:01 p.m.
@realDonaldTrump
“These are the things and events that happen when a sacred landslide election victory is so unceremoniously & viciously stripped away from great patriots who have been badly & unfairly treated for so long. Go home with love & in peace. Remember this day forever!”
午後6時1分
ドナルド・トランプ
「これらは、長い間ひどい扱いを受けてきた偉大な愛国者たちから、神聖な選挙での圧倒的勝利が、無礼かつ残酷に奪われたときに起こる出来事です。愛と平和を持って家に帰ってください。この日を永遠に覚えておいてください!」

 トランプ氏は最後まで上記のように襲撃者を正面から非難することなく、むしろ被害者であるかのようにツイートしていた。4人もの死者を出す大事件であったのに。


 バイデン氏が暴力を批判したことを受けて、日本では同様の事件では対立勢力から批判されないと主張する「しわすみ@s_w_s_m」氏らのツイートも注目をあつめていた。


暗殺当日には警察がテロリストの思想背景をばらし、3日後には野党マスコミ総出で「義士山上に悲しい過去!安倍が殺されて当然だったこれだけの理由!」とテロ肯定キャンペーンを張ったどこぞの極東のド三流国家では考えられない、民主主義に対する誠意と矜持を感じますね。

 実際は安倍氏が銃殺された事件において各野党は暴力に反対する姿勢を明確にしめしていたが*3、たしかに日本では辻元清美氏への襲撃で自作自演説がとなえられたことがある。
立憲・辻元氏の事務所に生卵「不自然な状況」とミスリードな画像が拡散、“自作自演”がトレンド入り

ネット上では「自作自演」などという根拠に基づかない書き込みが相次いだ。辻元議員の事務所とは無関係なベランダの写真を用いて「物理的にあり得るのか」などと指摘するユーザーもいた。

その後、まとめサイト「Share News Japan」はこの画像を用い、【辻元清美氏事務所に生卵 → 不自然な状況に“自作自演”がトレンド入り】などという記事を公開。記事は1万近く以上「いいね」されるなど拡散している。

 事件に対して「しわすみ@s_w_s_m」氏は「生卵が投げ込まれていただけ」と矮小化するツイートをしていたが*4BuzzFeed記事内にも説明があるように数ヶ月前にも事務所の窓ガラスを割って侵入する事件が発生していた。
 しかし日本だけでなく米国でも下院議長宅を襲撃した事件に対して、有力政治家が悲しいできごとと評しつつ陰謀論をとなえたことがあった。その人物こそトランプ氏だ。
「変だ。ロシアや中国を理解する方が簡単」トランプ氏、ペロシ議長宅襲撃事件に関して陰謀論を展開(飯塚真紀子) - エキスパート - Yahoo!ニュース

トランプ氏は目前にしている米中間選挙について「エキサイティングだ。共和党はよくやっている。犯罪やたくさんの悪いことが起きているので、“赤い波”に乗っている。興味深い」と発言、ペロシ氏宅で起きた襲撃事件について聞かれると「この数週間、あの家ではおかしなことが起きている。ペロシ氏の家のガラスは、外側からではなく内側から破られていた。ブレーク・インではなく、ブレーク・アウトだ」と述べた。

 襲撃の動機からして、大統領選の結果を当時下院議長だったナンシー・ペロシ氏がトランプ敗北にねじまげたという陰謀論にもとづいていた。
 トランプ氏は2021年にも、ブラックライブズマター運動に対してライフルを乱射して死傷者を出しながら無罪になった裁判を歓迎していた。
トランプ氏「祝福」、3人死傷させた白人男性が無罪 BLMデモ銃撃:朝日新聞デジタル

 保守的な政治家からは評決を歓迎する声が相次いだ。事件時から被告を擁護してきたトランプ前大統領は「全ての罪で無実となったことを祝福する。もしこれが自己防衛でなければ、何も自己防衛にはならない!」と声明を出した。

 2020年の新型コロナ禍においては、ミシガン州で銃器を携行して本会議場への乱入をこころみた数百人の運動に対して支持を表明した。
銃を手に……ロックダウンに抗議し州議会に押しかけ 米ミシガン州 - BBCニュース

ドナルド・トランプ米大統領は当時、「ミシガンを解放しろ」など、州政府への抗議行動が起きた州についてツイートし、デモ主催者を支持した。これは、野党・民主党所属の知事がトップにいる州政府に対して、反政府行動を扇動したに等しいと批判された。

 さらにさかのぼって2016年、大統領選であらそったヒラリー・クリントン氏への暗殺をトランプ氏が示唆したとして問題になったこともある。
トランプ氏、銃規制に絡む発言が波紋

米大統領選の共和党候補ドナルド・トランプ氏は9日の演説で、米最高裁判事人事をめぐり、民主党の対抗馬ヒラリー・クリントン氏がリベラル派を指名するのを銃規制反対派が阻止する可能性があると述べた。
トランプ氏の発言をクリントン陣営は「危険」とし「大統領を目指す人間は、いかなる形でも暴力を示唆すべきでない」と指摘した。

 さすがにトランプ陣営は釈明したが、少なくとも2016年から銃規制への抵抗でトランプ氏は一貫しており、銃撃事件が発生しても正面から批判しない傾向もうかがえる。


 また、銃撃事件を受けながら拳をふりあげるトランプ氏の写真をもって、大統領にふさわしい人物であるかのような印象論が流れている。
[B! アメリカ] In pictures: Trump injured in shooting at Pennsylvania rally | CNN Politics
 これに対しては考古学者の「Dr. RawheaD@RawheaD」氏のように、むしろ自他をさらなる危険にさらしているという批判もある。


プロトコルとしては安全確認(この場合はshooter downという合図)と同時に安全な場所(モーターケードの車内)に速やかに警護対象を移動させることになってるんだけど、やれ靴を履かせろアピールさせろ、と自分もSSメンバーも不必要に危険に晒すトランプに「大統領の風格」とか言う人もいるんですよ

 さすがに銃撃の直後の興奮状態を批判することもそれはそれで厳しいところはあるが、危機管理能力の低さをうかがわせる態度とはいえるかもしれない。
 それでも、あらかじめ危機が発生しづらい制度を整備する態度と、制度を拒絶して犠牲者を出しながら危機と戦う姿勢を見せる態度とで、後者のほうが危機管理能力が高いと感じてしまうのであれば、原理的な認知の不具合ではある。
 犯人が射殺されたため動機の特定は困難だが、無差別な銃乱射事件という可能性もある。そうした事件に対する半年前のトランプ氏の言葉も「Dr. RawheaD@RawheaD」氏は引いている*5


この暗殺未遂が政治性を帯びたものではなく米国で毎日のように起きているランダムな銃乱射事件の類ということになったら、今年1月アイオワ州で起きた銃乱射で12歳児が死亡した事件に関してトランプが言った「ひどい話だけど忘れて前に進まないとね」という言葉が胸に響く
Trump tells Iowans to ‘get over’ school shooting at campaign event | Donald Trump | The Guardian

 動機や手法を解明して再発を防止することは、暴力に賛同することではない。むしろ前例を忘れることこそ同じような暴力を新たに呼びこむことにつながる。

*1:現ポスト。

*2:翻訳文はgoogle翻訳をてなおしせず引用した。以降のツイートの翻訳も同様。

*3:安倍元首相銃撃、国内外の要人コメント | ロイター

*4:

*5:リンクされたガーディアン記事を読むと、事件から36時間後の初めての言及で「“It’s just horrible – so surprising to see it here. But we have to get over it. We have to move forward.”本当にひどい。ここでこんな目に遭うなんて驚きだ。だが、私たちはこれを乗り越えなければならない。前に進まなければならない」とコメントしたとのこと。「get over」は乗りこえる、立ちなおるという意味だが、忘れることでそうするというニュアンスがある。