法華狼の日記

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能登半島地震で石川県知事の馳浩氏が自衛隊派遣を要請して、それが伝達できた実際の時刻はいつなのかという謎

結論ははっきりしない

 公式的には16時45分ごろに派遣要請したことになっている。
 簡単にしらべたかぎりでは、2024年1月1日16時10分に震度7地震が発生してから、19時すぎまでには派遣要請が全体につたわったことは確実だろう。
 しかし実際につたわった厳密な時刻がいつなのかは、よくわからなかった。現場や報道が混乱していたにしても、さまざまな情報に微妙な違いがある。

県知事と防衛相の齟齬と、「遡って決定」という記述

 ツイッターid:flurry氏が政府の初動について時系列を整理し、馳氏と防衛相の木原氏でくいちがいがあることを指摘していた。


能登半島地震の政府の初動ですが。
・官邸にいる石川県知事の馳浩は、18:13に『先ほど陸上自衛隊に対し、災害派遣を要請しました』とツイート。
・一方で、18:58から記者会見を行った木原稔防衛相は「災害派遣についての報告を防衛省は受けていない」とコメント。
……どういうことですので?
馳浩石川県知事のツイート。
https://twitter.com/hase3655/status/1741749432276996463

防衛大臣記者会見のページ。
https://mod.go.jp/j/press/kisha/2024/0101a_r.html


ちなみに、実際の自衛隊の派遣要請は16:45に「遡って決定」されているそうな。なにがなんだか、さっぱりわかりません。

 18時すぎに公開された馳氏のツイートは内容が更新されており、現在は「先ほど」という表現がなくなっている。


陸上自衛隊に対し、災害派遣を要請しました。明朝、朝一での対応をお願いしています。
私は地元に帰る途中でしたが、地震により飛行機も新幹線も止まったため、すぐに岸田総理や林官房長官に連絡を取り、官邸へ移動。現在官邸において、石川県庁にいる副知事と連絡を取りながら対応しています。

 flurry氏がリンクしている知事発言要旨は、23時45分におこなわれたものらしい。正確には派遣要請ではなく、派遣が決定した時刻と書かれている。
https://www.pref.ishikawa.lg.jp/saigai/documents/chijihatsugen2.pdf

6市町(輪島市珠洲市穴水町能登町志賀町七尾市)に自衛隊の派遣が決定した(16時45分に遡って決定)。

 たしかに法令や人事などが遡って発令されることはある。発言要旨が正しいならば実際に派遣が決定した時刻は16時45分より後だったことになる。
 自衛隊の自主派遣も後で自治体の要請がとどいて、さかのぼって要請された形式にする場合があった気がするが、きちんとした情報を見つけられなかった。
 もちろん公文書でも誤記などが混入する場合はあるが、要旨のようなシンプルな資料でわざわざ「遡って」と記述されていることは気にかかる。

Wikipediaの変遷と出典の確認

 馳氏が16時45分に派遣を要請したことは、形式ではなく実際のこととして一般には広まっているようだ。
 Wikipediaで更新がつづいている能登半島地震の項目だが、読売記事と統合幕僚本部を出典として、要請と受理の時刻は16時45分ごろにさだまっている*1
能登半島地震 (2024年) - Wikipedia

16時45分頃、石川県知事の馳浩陸上自衛隊守山駐屯地の第10師団長に災害派遣を要請[267]し、第10師団長は同時刻これを受理[265]。

265.^ a b c d “令和6年能登半島地震に係る災害派遣について” (PDF). 統合幕僚監部 (2024年1月2日). 2024年1月2日閲覧。

267.^ 「石川県の馳浩知事が首相官邸入り、午後4時45分に陸上自衛隊災害派遣要請」『読売新聞オンライン』、2024年1月1日。2024年1月1日閲覧。

 Wikipediaに全幅の信頼はおけないものの、いつ編集されたかは履歴で確認しやすい。
 見ていくと1月1日19時7分版から自衛隊への派遣要請が記述されるようになり、この時点で16時45分ごろとされている。
能登半島地震 (2024年) - Wikipedia

石川県知事馳浩が午後4時45分頃に自衛隊災害派遣を要請したことをX(旧Twitter)で発表https://news.yahoo.co.jp/articles/b5086e8134b7f02c95e9b7c4f5216897c195f311

 しかし18時58分に配信されたスポニチアネックス記事のURLを本文にはりつけただけで、読んでみると要請時刻は書かれていない。実際のツイートは先に引用したように時刻は書かれていない。
石川県・馳浩知事 自衛隊に災害派遣を要請 自身は帰郷中も交通乱れ断念「副知事と連絡を取り対応」(スポニチアネックス) - Yahoo!ニュース

馳浩知事が1日、自身のX(旧ツイッター)を更新し、同県能登地方を震源とする大きな地震が起きたことを受け、自衛隊災害派遣を要請したことを報告した。

 今回の災害を受け、馳知事は「陸上自衛隊に対し、災害派遣を要請しました。明朝、朝一での対応をお願いしています」と説明した。

 その後に1月1日19時17分版から、読売新聞を出典とする要請時刻が記載されるようになった。この時点でWikipediaにおける記述の出典としては条件を満たしているだろう。
能登半島地震 (2024年) - Wikipedia

同日16時45分頃、石川県知事の馳浩自衛隊災害派遣を要請した[25]。

25.^ 「石川県の馳浩知事が首相官邸入り、午後4時45分に陸上自衛隊災害派遣要請」『読売新聞オンライン』、2024年1月1日。2024年1月1日閲覧。

 その後につけくわえられた統合幕僚本部の資料だが、1月2日の公開と遅く、あくまでプレゼンテーションなので見やすいが厳密さは期待しづらい。
https://www.mod.go.jp/js/pdf/2024/p20240102_01.pdf

○ 同日1630以降、自主派遣による災害派遣により、第2航空団(千歳)航空機2機による航空偵察等を実施。
〇 同日1645、石川県知事から陸上自衛隊第10師団長(守山)に対して災害派遣要請があり、同時刻受理。

 左上を見ると「数値等は全て速報値のため、今後変更される可能性があります。」とも注意されている。他の資料や報道より優先して信用すべきとは思えない。

囲み取材における県知事の発言

 読売記事は18時18分に配信されているので、それまでに派遣要請が出されたことはうかがえる。しかし要請したのが馳氏ではなく県となっていることが引っかかる。
石川県の馳浩知事が首相官邸入り、午後4時45分に陸上自衛隊に災害派遣要請 : 読売新聞

 石川県の馳浩知事と西垣淳子副知事は1日午後5時頃、首相官邸に入った。県は午後4時45分、陸上自衛隊災害派遣の要請を出した。

 もちろん県知事が要請したことを県が要請したと表現することは一般的だ。
 しかし20時50分に配信されたテレビ朝日記事によると、17時すぎに副知事の西垣氏をつうじて派遣要請したと書かれている。ただし掲載された映像は短く、馳氏の説明に派遣要請についての言及はない。
【能登半島地震】石川県・馳知事 自衛隊に災害派遣要請 総理官邸でコメント

 また、1日午後5時すぎには副知事を通じて、自衛隊に派遣要請をしたと話し、2日の早朝から救命や本格的な情報収集に入ることになると説明しました。

 念のため、先行する20時28分のNHK記事も同じ趣旨の発言を掲載している。テレビ朝日単独記事ではないので、派遣要請を17時すぎに出す意向を馳氏が語ったことまでは事実と思われる。
石川県 馳知事「このあと自衛隊機で県庁に戻る」 | NHK | 令和6年能登半島地震

記者団に対し「このあと自衛隊機で、内閣府副大臣らと一緒に県庁に戻る予定で、災害対策本部に入って緊急の対応を取る。午後5時過ぎには、副知事を通じて、自衛隊の派遣要請も出し、速やかに対応していただけると思うが、夜に入ったので、あすの朝、明けてから本格的な情報収集や救命活動に入ることになる」と述べました。

官房長官が派遣要請を知った瞬間

 他に時刻をたしかめられる報道記事がないか見ていたところ、官房長官林芳正氏の記者会見速報が気になった。
【速報】石川県知事が自衛隊派遣要請と官房長官|47NEWS(よんななニュース)

官房長官は会見で、石川県の馳浩知事から自衛隊に対し、災害派遣を要請されたと明らかにした。

 要請の時刻は書かれていないが、各紙に配信される共同通信の速報にしては19時24分という遅さが気にかかる。
 そこで首相官邸公式アカウントのツイートを見て、17時におこなわれた最初の記者会見*2ではなく、19時2分におこなわれた二度目の記者会見としぼりこめた。


地震情報】
本日(1月1日)19:02から行われた林官房長官会見の動画を掲載しました。
https://kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/202401/1_pm_2.html

 ページには会見部分だけが書き起こされ、自衛隊は他の機関とならべて言及されているだけで、要請についての記述はない。
令和6年1月1日(月)午後 | 官房長官記者会見 | 首相官邸ホームページ

自治体と緊密に連携を図りながら、警察、消防、自衛隊海上保安庁を中心に救命・救助活動を最優先に、災害応急対策に全力で取り組んでまいります。

 質疑の映像を見ていくと、開始4分ごろに記者から質問されて、まだ要請を受けてなくて自衛隊は自主派遣と林氏は説明している。
 そして開始10分50秒ごろに資料を横からわたされ、要請を受けてないと先に説明したことを再確認して、先ほど馳知事から要請を受けたと説明している。
 つまり馳氏の派遣要請が官房長官にまでつたわったのは、19時10分前後と考えていいだろう。
 もちろん林氏の記者会見中も関係者は分刻みで対応しているだろうし、要請が自衛隊につたわったのはそれ以前と考えられるが、確証はない。

はっきりしない結論

 そもそも要請以前から自衛隊が自主派遣で動いていたとされており、実際の要請時刻がいつであっても、それほど初動は変わらなかったかもしれない*3
 ただこれほど公式の発表も報道も多い直近の災害であっても、確定的に語られている出来事が細かく見ていくと実態がはっきりしないことは考えこんでしまう*4
 いずれ実際の経過が少しでも明らかになってくれるだろうか。それとも難しく考えているだけで明確な情報がすでにどこかに提示されているのだろうか。

*1:引用したのは1月11日1時34分版。以降の版の時刻もふくめ、Wikipedia世界標準時UTCが表示されている場合、日本標準時の9時間前になっていることに注意。 能登半島地震 (2024年) - Wikipedia

*2:

*3:その意味では馳氏がツイートでも取材でも自衛隊に翌日の活動をもとめていることが気にかかるが、今回の本題ではないので脇におく。

*4:つい先日に引いた東日本大震災への対応も、より政府も報道も熱心に情報発信をおこなっていたが、報じられた分刻みの対応がどこまで正確なのか。 東日本大震災で自衛隊の陸幕長が独自に出動をはじめたことは、当時に首相だった菅直人氏の命令が遅かったことを意味しない - 法華狼の日記 ただ比較すると、東日本大震災とくらべて行政内部にはコミュニケーションに問題がないように見える能登半島地震において、むしろ問題が表面化していないことで課題が認識されていない危険も感じている。あえていえば、問題を表面化させて批判をあびる弱腰の政府のほうが、結果的にせよ民主主義の理念にそっているのではないか。