特筆したい視点があったり、埋もれそうなエピソードを掘りおこす企画のため、各作品1話ずつで順位はつけない。
『ドラえもん』ヒミツゲンシュ犬/水玉カプセルの旅
『ひろがるスカイ!プリキュア』第34話 もんもん!ましろと帰ってきたアイツ
『呪術廻戦』第37話 赫鱗
『王様ランキング 勇気の宝箱』第8話 カゲのあこがれ/偉大な母
『僕のヒーローアカデミア』第137話 未成年の主張
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』第15話 父と子と
『痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。2』第11話 防御特化と新パーティ。
『異世界召喚は二度目です』第六話 師弟関係は二度目です
『ポーション頼みで生き延びます!』第11話 お宝ハントでお婿さん見つけます!
『ゾン100~ゾンビになるまでにしたい100のこと~』第1話 アキラ オブ ザ デッド
現在は「aninado」というWEBサイトで集計がおこなわれている年末恒例企画。
昨年の下記エントリで書いたように、年々興味範囲が広がるにつれ、作品をリアルタイムで押さえることが難しくなっている。
話数単位で選ぶ、2022年TVアニメ10選 - 法華狼の日記
しかも今年は世界的にも古い無料配信サイトGYAO!が完全閉鎖したことで、インターネットでTVアニメを追いかける習慣がくずされてしまった。
GYAO!が2023年3月31日に全サービスを終了するとの報道 - 法華狼の日記
まだAbemaは悪くないが、各放送局が推しているTVerの一覧性のなさがひどすぎて、DVDやブルーレイのディスクを入れかえるほうが楽に感じるくらいだ。
以下、各話の簡単な感想。
『ドラえもん』ヒミツゲンシュ犬/水玉カプセルの旅
選んだエピソードの後半もそうであるように、声優リニューアル以前のアニメオリジナルストーリーを同じ脚本とコンテで作画しなおすくらい作品にネタ切れが見えつつある昨今。
『ドラえもん』ヒミツゲンシュ犬/水玉カプセルの旅 - 法華狼の日記
だからこそ、前後とも原作で類似した人気エピソードがありつつ、わずかなアレンジで見事に異なる印象のストーリーにしあげた回を選んでみた。
視聴時は「ポータブル国会」に似つつも風刺性が弱くなったと思った「ヒミツゲンシュ犬」だが、今となっては蓋をされてきた罪が一気に噴出した2023年の年末らしさを感じさせる。
『ひろがるスカイ!プリキュア』第34話 もんもん!ましろと帰ってきたアイツ
作品そのものはフォーマット構築に失敗した印象が強く、敵組織の情報がほとんど説明されないまま1年間をすぎたシリーズ構成にも疑問をもっている。
だからこそ、敵幹部の個人的な策略で状況が混乱するエピソードの完成度が印象に残った。
『ひろがるスカイ!プリキュア』第34話 もんもん!ましろと帰ってきたアイツ - 法華狼の日記
展開に説得力をもたらす策略のうまさ、敵味方の情報格差によるギャップコメディだけでなく、遊びまくったビジュアル演出と映像面でも見どころが多い。
『呪術廻戦』第37話 赫鱗
「懐玉・玉折」の連続ストーリーとしての良さは印象深いが、それゆえ各話のベストテンには選べない。そこで敵味方が総力でぶつかった「渋谷事変」の、すさまじい制作リソースがそそがれたなかで特異的なこのエピソードを選んだ。
3DCGで構築されたセットのなかをキャラクターふたりが対峙して、延々と攻撃しあう。地下構内という閉鎖環境とはいえ障害物の少ない広がりある空間から、接近せざるをえないトイレという狭い空間へ移動することでアクションのテンションもテンポも変わり、延々と戦いがつづきながら飽きさせない。
デジタル技術らしいシャープなエフェクト作画に、キャラクターの細い描線。水滴が身体の表面ではじかれる描写が作画素材のはりこみで表現される。そのはじかれた水滴は実線のハイライトで表現。宣伝や道案内のライトしか照明がない地下道で、デジタル彩色ならではの微妙な中間色がつかわれ、ハイビジョンTVを前提とした薄暗さをやりきったことも感心した。
第32話の北久保弘之コンテ演出回が古い省力スタイルとして不評だったのが意外だったが、今回と比べるとアクション演出の時代が異なることを良くも悪くも実感できた。
『王様ランキング 勇気の宝箱』第8話 カゲのあこがれ/偉大な母
本編がひとまず完結した後に、なぜか単行本付属のOADでやるような外伝エピソードを1クール近く放映した謎のTVアニメ。
そのなかで外伝らしいいつもとは異なるアニメーション手法を最初につかった「偉大な母」と、主人公と出会う前のパートナーのルーツを描いた「カゲのあこがれ」が入ったエピソードを選んだ。
弱きもの勇気をふりしぼった輝きが認められる物語は、強者が認める構図に批判があることも理解するが、それでもひとつの理想だと思える。
『僕のヒーローアカデミア』第137話 未成年の主張
OPのコンテ等を担当した中村豊が本編でもサプライズ登板した第134話はさすがアクションアニメとしては楽しかったが、エピソードのベストテンに選ぶとすればこちらだろう。
表現において忌避されがちな「声高」な台詞が、サブタイトルにあるようにメインキャラクターから堂々と出てくる珍しさ。それを聞かされる弱き群集の拒否感も否定しない。
孤独に歩もうとした主人公が学園にもどってくる、能力がねらわれながら行動によって受けいれられる、主人公が無能力者だった導入の対となる物語としても印象深い。
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』第15話 父と子と
今年はふしぎとTSFと呼ばれる性転換をテーマにしたアニメや、百合と呼ばれる女性同性愛をメインテーマにしたアニメが目立ったが、どれか突出したエピソードで選びにくい作品が多いことや、別のかたちで言及したいこともあって基本的に除外した。
そこで逆説的に、女性ダブル主人公ではなく、一時期は実質的な主人公とも呼ばれていた御曹司の挫折と見聞のエピソードを選んだ。独立したエピソードとしての完成度の高さ、地に足がついたメカアクションの質と量の良さもある。
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』第15話 父と子と - 法華狼の日記
作品自体がもっと女性同性愛をメインテーマにしていれば、このような外伝的なエピソードがアクセントとしてきわだったと思うのだが、公式の発表の迷走から考えると難しかったのかもしれない。
『痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。2』第11話 防御特化と新パーティ。
総力戦でなんとか成立させた最終12話よりも作画が良くて楽しかった。いわゆるWEB系のような前半と、いつものレトロスタイルな後半とでアニメーションのスタイルが異なっていることも単調化をふせいでいる。
作品自体も、TV1期は主人公が出オチのような手法で強くなった第1話をのぞいてはパワーも仲間もインフレするばかりで単調だったが、TV2期になると予想外の動きをするプレイヤーと運営の対応が拮抗することで主人公の最終的な勝利は見えすいていても意外な緊張感がある。
ゲームはエンジョイするものという目的が明確化されたことで、別陣営プレイヤーも運営も対立しつつ根本的には共同関係にあることがはっきりして、主人公中心ではない群像劇らしいドラマがMMOらしさを生んでいる。効率的な勝利よりもエンジョイを優先するがゆえ主人公が意外な攻略をおこなったり、逆に別陣営に攻略速度では劣ったりしていることも、主人公の立ち位置を再確認させて良かった。
『異世界召喚は二度目です』第六話 師弟関係は二度目です
いわゆるなろう系の良い視聴者ではなく、うまく楽しめないことが多いからこそ、あまり評価の良くないらしいこの作品が意外な拾い物だと感じられた。
『異世界召喚は二度目です』が意外と(作画以外は)悪くない - 法華狼の日記
くわしくは上記エントリで書いたが、なろう系を否定はせずに再解釈のように物語を展開することで、この作品にかぎらずなろう系を楽しめるひとつの枠組みが提示されたと思えた。
そうした物語のひとひねりを象徴するエピソードとして、異世界ファンタジーで本格ミステリ的なシチュエーションをやりきったエピソードを選んだ。連続ストーリーの一編でありつつ、これだけでも完結して楽しめる。
『ポーション頼みで生き延びます!』第11話 お宝ハントでお婿さん見つけます!
作品自体はまったく感心できず、ところどころに嫌悪感すらもったが、それゆえいつもよりエクスキューズの多いこのエピソードは見やすかった。
『ポーション頼みで生き延びます!』で主人公が戦争に子供を参加させてしまう描写がつらい…… - 法華狼の日記
あらゆる言語を読み解けるチート能力が意図せず暗号を読むことにつながってしまったり、主人公のレシピでつくった弁当で主人公のものが最も不人気だったりと、いつもと違ってひとひねり入っている描写が多い。宝探しもベタなパターンとはいえ、最低限のひねりは入れている。
もちろんポーション容器という口実であらゆる存在を呼びだせるのだから、主人公が商売をおこなう意味は根本的に存在しないのだが、今回はそこに自覚的な台詞もあって許せる。
主人公のつきぬけた非道っぷりを楽しむ方向では逆にカタルシスが足りないエピソードだろうな、とも思うけれども。
『ゾン100~ゾンビになるまでにしたい100のこと~』第1話 アキラ オブ ザ デッド
モノクロなトーンのシネマスコープでつくられた陰鬱な社会人の毎日と、ゾンビ襲来からのカラフルな解放感というビジュアル演出はアニメーションという媒体ならでは。
以降は少しずつ仲間をあつめたり、人間同士の軋轢に巻きこまれたり、普通のゾンビ作品になっていったが。ゾンビ映画は人気作品でも結末にまともなものが少ない、逆にいえばゾンビ作品は出オチ部分が一番楽しいということを再確認した。
制作会社が新興ゆえに体制の問題をかかえていたのか、1クールなのに総集編をくりかえして最終3話も後日の放映となった顛末も、結果的に印象のダメ押しとなった。
他に2022年で印象に残ったことが『TIGER & BUNNY 2』のNHK放送と、『蒼穹のファフナー THE BEYOND』の分割放映。後者は連続OVAのTVアニメ化として『ブレイク・ブレイド』や『空の境界』といった前例があるが、前者のようにWEBアニメとして配信された作品の全国地上波放映は時代の変化を感じざるをえなかった。
ひとまとまりの話数を一挙配信して話題を集中させるWEB配信アニメの手法が、定期的な放映で話題を継続させるTVアニメに話題性では劣っていると感じた。そして独占配信によって作品が埋もれがちな昨今*1、初放映の時期をいつと判断するかの難しさが話数単位ベストテン企画の難しさを感じてしまったし、だからこそコンセプトの意義が高まっていると思える。