法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『続・猿の惑星』

惑星の真実を知り、未開人の女性ノバをつれて荒野をさまよう男テイラーは、突然の異常気象のなかで超常現象のように姿を消す。一方、テイラーたちをさがして宇宙船を惑星に不時着させた男ブレントは、ひとりさまようなかでノバと出会い、この世界を猿が支配していることを知るが……


1970年に公開されたSF映画シリーズ2作目。シネマスコープサイズだが、前作より尺が少し短くなった。

映像ソフトに付属するドキュメンタリによると、ロバート・ワイズ監督の『スター!』の失敗もあって倒産寸前だった20世紀FOXが、大成功した1作目*1につづこうとひねり出した続編。
1作目で主演したチャールトン・ヘストンは乗り気ではなく、序盤で死ぬ役柄という条件を出して出演し、終盤に再登場する展開はさらに製作側が説得したという。
1作目のフランクリン・シャフナーは『パットン大戦車軍団』にかかりきりだったため、後に『ダーティハリー2』を手がけるテッド・ポストが監督をつとめた。
500万ドルの予定だった制作費は半額の250万ドルにされたといい、このテーマのハリウッド映画としては当時でも低予算作品になっている。


物語は映画オリジナルの絶望的な結末から直接につづき、原作小説から完全にはなれたが、原作者のピエール・ブールにも脚本原案をたのんだ。しかし、ただ人間が勝利して知恵ある猿を見世物にして終わる展開だったそうで、それではただの価値観の逆転の再逆転でしかなく、そのまま映画化する意味がないという製作者の判断は当然だと思えた。
ただし完成した展開も、脚本を受けとったテッド・ポスト監督が指摘するようにコンセプトがはっきりせず、その場その場で危機が発生しては危機をやりすごすだけ。流されるだけのブレントに、演じたジェームズ・フランシスカスは不満をもったという。
風刺SFとしても、ベトナム戦争とその反対運動を意識した猿世界の三勢力の葛藤は露骨*2なりに悪くないとして、ミュータント化した地下人間が対立勢力としてうまく機能していない。
ミュータントは地下でカルト宗教的な社会を構築して、テレパシー能力でテイラーを拉致したことが明かされるのだが、ただ牢屋に入れるだけで状況を動かさない。猿軍団へテレパシーで幻覚を見せるが、オラウータンの信仰にふれて突破された後はただ武力で制圧されるだけ。
ミュータントが生身に見せかけたマスクをぬいでグロテスクな素顔をさらす場面が特殊メイクの新たな見せ場となっていて、前作のオチに相当するサプライズになっているが、ビジュアルのインパクト以上の意味がない。普段はテレパシーで会話する未来人という描写を先に出しているので、現代人とは違うことをあらためて視覚化する必要がない。そもそも未来人を現代人から離れた存在にするほど、猿との対立がメタファーとして意味を失ってしまう。ただベトナム人らしくしなかったのは、中途半端な理解で当時の偏見が映像化されるよりは良かったのかもしれない。


そうして意味もなく未来人と現代人が対立し、そこに猿軍団が侵攻してきたあげく、未整理で乱雑な対立構図は唖然とするオチで無理やり終わる。
猿社会で葛藤するドラマも、ブレントとノバの交流も何の意味もなさない。その無常感が当時はいくらか共感をもって鑑賞できたのかもしれないが*3、現在となっては珍しくない投げやりな結末としか思えない。
低予算を反映するように描写もあっさりしたもので、無音の短いキャストクレジットが流れるだけ。カタストロフを映像化したことによる興奮すらない。


ただ、低予算作品のわりに特撮映画としては1作目よりは充実はしていた。
おそらく序盤のセットや小道具などは前作を流用することで、崩壊した人類文明の新設セットに予算をまわせている。熱で溶けた地下鉄駅舎や教会は立体的な空間として見ごたえある。
実写と質感をあわせた精緻なマットペイントも崩壊した文明の説得力をあげている。地下鉄駅舎セットからつづく線路の奥からしてマットペイントだと思うが、整合した色彩と正しいパースで気にならない。数年前の作品とはいえ、東宝特撮『海底軍艦』のマットペイントは絵画にしか見えなかったものだ*4。それから静止した廃墟をブレントとノバが歩く情景は、地獄めぐりのような雰囲気があった。
ミュータントの見せる幻覚で合成も多用され、特にテイラーが序盤で直面する地割れは良い時の東映特撮のような良さだった。誉め言葉ではない気もするが。

*1:hokke-ookami.hatenablog.com

*2:進軍するゴリラの目前で、プラカードをもったチンパンジーがシットイン……座り込みをおこなう。

*3:前世紀に横山光輝の似たオチの漫画作品を読んだ時は、それなり以上に感情移入できた記憶がある。

*4:hokke-ookami.hatenablog.com