法華狼の日記

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科研費裁判で杉田水脈氏が一部でも逆転敗訴したのは良かったが、「捏造」という評価をめぐる裁判所の判断はよくわからない

杉田水脈氏に33万円賠償命令 控訴審判決、教授らの訴え一部認める | 毎日新聞

 清水裁判長は、経理に関する発言は科研費が不適切に使用されたと受け取られる内容で、真実とも認められないと判断。「ずさん」と指摘された牟田氏の社会的評価を低下させたと認定した。一方、「捏造」「反日」など他の発言は22年5月の1審・京都地裁判決と同様、「意見や論評の域を出ない」と結論付けた。

 捏造より不正使用という評価が研究者の評価をさげるという判断がよくわからない。研究費を適切につかうことも研究者の仕事のひとつだが、研究者は会計の専門家ではあるまい。
 全面敗訴した一審判決に対する原告側記者会見で指摘されたように、通説に反した認識を根拠に研究を捏造あつかいすることは「意見」だからゆるされるという判断もよくわからない。
フェミ科研費裁判 歴史修正主義に迎合の不当判決/支援者「全部棄却信じられぬ」/京都地裁

原告の一人、岡野八代同志社大学教授は「研究内容を『ねつ造』、研究の根幹である研究費を『不正使用』と発言されたにもかかわらず、判決では、社会的評価をおとしめるものではないと判断された。研究者の社会的評価とは一体なんなのか」と不当判決への強い怒りを語りました。

 判決は、杉田氏が「慰安婦」の強制連行はなかったという認識を前提に意見を述べたにすぎないとしました。

 支援者集会で原告の牟田和恵大阪大学名誉教授は「歴史修正主義に基づく判決で衝撃を受けた」と怒りをあらわにしました。

 たしかに植村隆氏の裁判などでも「捏造」という評価が軽く見られて、評価の根拠が薄弱なことが明らかになっても植村氏は全面敗訴したし、司法の世界では前例を踏襲するような一貫した判断なのかもしれないが……
hokke-ookami.hatenablog.com

櫻井氏の釈明をあらためて考えると、本当に「時によって」証言がぶれていたのであれば、植村記事の証言が他の場での証言と違って見えたとしても、それだけでは捏造と断定できなくなるだろう。一応、売られたという証言の根幹はゆらいでいないという主張とあわせてはいるが、後述のように証言者は強制連行されたという主張もしていた。

 ただ、その植村氏の裁判の経過などを見ても、吉田清治証言や強制連行の重要度を過大視するような、過去から現在まで歴史学より日本政府の主張を重視する考えが裁判所に根づいているのではないか、という疑いをもたずにいられない*1

*1:少なくとも植村裁判では、原告も被告も論争には無関係と考えて言及しなかった吉田証言を、証拠として出すように裁判所がわざわざ指示していた。