法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

Colaboが約1300万円の人件費をもちだしていたという情報を見て、人件費を按分していなかったミスの背景を想像する

監査結果に対する東京都の対応を説明する文章が公開された。
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/kodomo/jakunenjosei/moderu.files/taiou.pdf
なかでも下記のくだりが、1300万円以上の人件費をColaboが経費にふくめていなかったと解釈され、一部で注目されている。

本事業に従事している職員の給与は総額で22,479,576円であったが、うち13,674,740円については、本事業の管理台帳に記載されていなかったため、対象経費には含めないものとする。

総額も比率も多すぎて信じがたく、何か誤読しているのではないかとも思ったが、Colabo側の弁護団声明でも広まった解釈どおりの説明がされていた。
https://colabo-official.net/wp-content/uploads/2023/03/seimei230306.pdf

実際には、東京都が人件費として経費認定した委託費の倍以上(13,674,740円)の人件費に相当する働きを、Colaboは自主財源を持ち出してまで行ってきたというのが実態であることが、本件再調査結果によってもご理解頂けるものと思います。

前後して、監査結果で監査請求の主張が部分的に認められた数少ない項目に、税理士や社労士の人件費から委託事業ではない部分をさしひいていないというものがあった*1
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/kodomo/jakunenjosei/moderu.files/kannsa.pdf

税理士及び社労士報酬を全額計上しており本事業の実施に必要な経費以外の経費が含まれることになるため適切でない。したがって、税理士、社労士報酬を本件委託料に含めるべきではないとする請求人の主張の一部には理由がある。

この監査結果は東京都の対応でも踏襲され、委託事業と自主事業にかかる費用の比率で按分して、約60万円が過大請求だったとされ、約20万円が経費として認められた。

当該経費の按分の考え方であるが、団体の事業費の全体額(当該報酬を除く)のうちで本事業の経費(当該報酬を除く)が占める比率を乗じて、算出した。
 上記の結果、職員の給与8,804,836円、税理士報酬、社会保険労務士報酬等201,088円の合計9,005,924円が支出されていることを確認した。

念のため、税理士や社労士の人件費がいっさい経費として認められなかったとしても、Colaboが返還する必要のある金額にはならない。委託費は2600万円までしかもらえないが、監査後も最終的に約2700万円の経費がかかっていると認められている。


完全に想像になるが、経費にふくめなかった約1300万円を東京都の担当者は知っていたか、そうでなくても想定していたのでないだろうか。
そこで人件費を委託事業と自主事業で按分するにあたって、特定の人件費をすべて委託事業あつかいし、それより多くの人件費を自主事業あつかいすることで疑似的に按分したのではないか。変動する団体の事業費全体と委託事業の比率で按分するよりも簡単だし、厳密な按分と比べて助成金の額が変わるわけでもない。
もともとColaboは東京都の出す助成金にあわせて2600万円かかったという会計をわざわざつくっていた。そこで委託事業の実際の経費すべてを精査するような会計の手間をはぶけたのは東京都だ。人件費を按分するならば、東京都はさらに自主事業についても考慮する手間が増える。
つまり特定の人件費を按分していなかったこともまた、会計処理を簡便化するためにおこなっていたのではないか、という「推理」である。念のため、この「推理」が事実である確証はない。


しかし上記の「推理」そのものははずしていたのだとしても、今回のColaboの監査結果と東京都の対応を見れば、「杜撰」とも評される会計処理が制度設計から生まれたことがうかがえる。
一般的に、支援団体は事業に必要な助成金をもらえるわけではない。NPOの研究などをおこなっている小嶋新氏が昨年に説明していたように、助成金だけでは不足するように制度設計されている。


ただ、助成金はその性格上毎年度続くものではない。つまり、単年度である。事業の立ち上げ期にしか使えないものも多い。さらに、NPOが申請できるほとんどの助成金は、その事業単位で見ると赤字になるように設計されている。例えば、100万円で申請すれば、110万円を使わないといけない。

Colaboの主張がそのままとおって2600万円の補助金を満額もらっているという解釈は正反対だ。それ以上の経費がかかることは行政も支援団体も理解しながら上限までしか助成金をもらえないのだ。
その制度設計なら、原理的に団体が公金を横領できなくなるし、赤字になっても事業をおこなう善性が団体に期待できる。支援活動につきものの情報の秘匿などで経費かあいまいな領域をあらそう必要もなくなる。


ただし、助成金が赤字になる制度設計では、団体が会計処理を厳格化したり、行政が厳密に調べるインセンティブもなくなる。
たとえば監査結果が出た時、中小企業診断士の竹上将人氏がColaboについては「小規模事業者としてはむしろまとも」と評しつつ、東京都の担当のチェックが甘いとも評していた。


コラボの監査結果を見た感想としては、領収書に一部不備があるのと人件費・士業経費の事業向け分の按分ができていないようだが、小規模事業者としてはむしろまともなほうだなという感想は変わらない。
むしろ都の担当課のチェックが甘く見えるが、推察するに、事業者と対象経費が多く対応できないか?

団体からすれば経費の計上がいくらか過大でも過少でも助成金の金額は変わらないし、行政も多少のミスを見ぬいたところで上限いっぱいの助成金を出すことは変わらない。事実として監査請求以前のColaboへの助成金も行政が出すことを認めており、意図的ではないミスならば見逃した責任は何よりも行政にある。
厳密にするインセンティブを生むには、厳密にするほど少なくとも一方に利益が出る、もしくは損失を減らせることが期待できるようにすることが一般的だ。確定申告などはそのような制度設計になっている。
たとえば以前に書いたように*2、つかった経費を計上するほど助成金をもらえるのであれば、団体も行政も会計処理を厳密におこなうインセンティブが生まれる。そのように制度設計すれば団体が税金を横領する余地が生まれるわけだが、公金の横領の有無より会計処理の「杜撰」が本当に気になるのであれば文句はあるまい。


この件にはじめて言及した時、補助金をもらうほど支援団体が苦しくなりがちな背景への知見が広まることを少し期待していた。
だからこそ、個別の団体に負担がかかっても要望というかたちで興味がいくことは肯定したいとも思っていた。
仁藤夢乃氏の支援団体Colaboがバスカフェで提供している食品が一食2600円という計算は、さまざまな意味で誤っている - 法華狼の日記

不特定多数へ向けた支援も、人数だけでなく何らかの配布数を計上してほしい、といった要望だけならば理解はできる。また、事務費などを考慮しても、給食費を一括で処理せず事業ごとに詳細な会計をしていほしいという要望も一理はある。

しかし、支援団体がもちだしていることが何度となく説明されても、税金から利益を出せない制度設計になっていることがわかっても、税金の使途に興味関心があるはずの人々が注目しているようには感じられない。
Colaboを批判する根拠になることが優先的に興味関心をあつめて、普遍的な問題へ視野をひろげようとしない。類例として、都民ファーストの黒塗り公約違反は以前から報じられていたのに、Colabo関係で特有かのような陰謀論も注目をあつめていた*3
実のところ、現状のようになることは予想していたが、それでも残念なことだと思っている。